第十五話 世界の謎と冒険
明日の冒険の約束をしたところで、僕はフレアさんと別れて家に向かった。帰り道の途中、僕は鍛冶屋さんに言われた事を思い出していた。
「にしてもすごい腕前だ……ギルマスの斧の修理だけじゃなく、ミスリル武器の生産まで出来るなんて……どこで覚えたんだ?」
『創造主』のスキルの事は言えないので、適当にはぐらかす。
「い、いやぁ…ずっと無我夢中で試作や研究をしていたので……」
そう言うと、街の鍛冶屋さんはとても不思議そうな顔をしていた。
「お前さん……『レシピ』も無しに作ったってのか?」
「は、はい……」
「レシピも無いのにどうやって作るんだ?」
「それはもう何度も作って、失敗と成功を繰り返して……」
「そんなやり方で武器を作れる物なのか?」
僕はこの会話にものすごく違和感を覚えた。もしも全ての武器にレシピが必要なら、元のレシピはどうやって生まれたのか?そんな疑問を抱いたまま家に着いた。そして、僕はすぐに祭壇部屋で祈りを捧げた。
「久々にそちらからお越しになりましたね。私に会いに来てくれたんですか?」
カミスワさんのイタズラな笑みに、特にリアクションせず質問をした。
「この前教えてもらった武器生産について、質問したいんですが…」
「少しも反論して頂けないのは寂しいのですが…まぁいいでしょう。疑問を持っていらっしゃった事はわかってましたから」
「武器の生産のルールで、製造方法、もしくは設計図の『学習』が必要と言ってましたよね?それなら、大元の武器のレシピはどうやって生まれたんでしょうか?」
「そうですね……まず、『学習』に対しての認識が少し違いますね。学習とはあくまでも確立した製造方法の理解という事です」
「それなら、その製造方法を確立するには……」
「試行錯誤によって『発明』する以外に方法は有りません。そちらの世界に存在する普通級から神話級まで、全ての武器は先人達の知恵と研究によって生まれた物です」
「そうですよね……だけどフレアさんも、街の鍛冶屋さんも何故か『発明』という行為に理解がありませんでした……どうしてですか?」
「………それが、そちらの世界に巣食う闇と、貴方にお任せしたい問題点なのです」
「問題点?それは…」
「申し訳ありません。今こちらから説明できる事は有りません。とにかくウルカさんには、創造主とヴォルカヌスの神槌の力で、物作りを続けてもらいたいんです。それが結果的に世界を救う事になるのです」
「まぁそれはやりますけど……なんかモヤモヤするなぁ」
「そう難しく考えずに、ウルカさんは思うがままに物作りをしていけば問題有りませんから」
いまいちスッキリしないままカミスワさんとの会話は終わった。多少の疑問は残るが、明日はフレアさんの依頼に付き添う日だ。早目に寝てしまおう。
翌朝、出かける支度が済んだところで玄関をノックする音が聞こえた。
「おはよー!ウルカくん!」
「おはようございます。今ちょうど準備が出来たところです」
「じゃあ早速行っちゃおうか!」
森を進んで討伐対象のギガントボアを探す。しかし、それなりに希少な種な為、中々現れずに昼時を迎えた。
「はぁ…この間は会いたくもない時に会えたって言うのに、会いたい時には会えないんだもんなぁ…」
その時、フレアさんの腹部から元気の良い鳴き声が響いた。
「あ〜も〜!何の成果も無いのにお腹は空くんだもんな〜!!」
「あはは…ひとまずご飯にしましょうか?」
僕はアイテムボックスから敷物と竹籠を取り出した。
「えっ?お弁当作って来たの!?」
「はい。フレアさんの分も用意したので、嫌でなければ」
「もちろんいただくよ!!」
敷物の上に腰掛けて弁当の蓋を開ける。中は野菜と卵のサンドイッチとチキンナゲット。
「すご〜い!!美味しそう!本当に食べて良いの!?」
「食べて貰えると嬉しいんですが…」
「では遠慮なく!」
フレアさんは卵サンドを手に取り、一口頬張った。
「………ほ、ほいひぃいいいいい!!!」
そこからフレアさんは弁当の品をガツガツと食べ始めた。
「やっぱりウルカくんって料理の天才だよね!特にこの卵……街で食べる卵より美味しい気がするけど、何か秘密が有るの?」
「秘密って程では無いんですが……コレはマンティコアの卵で作っているので、街で出回っている鶏の卵よりも……」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待って!!コレ……マンティコアの卵なの!!?」
驚きの表情を僕の眼前1センチまで近づけるフレアさん。
「は、はい……そうですけど…もしかして食べちゃまずかったですか!?」
「まずい事は無いけど…マンティコアって言ったら、Dランクの中でも最上位の魔獣で、その体から採取できる羽、鱗、肉でさえ高値で取引されるマンティコアの卵は、王都の高級店でしか扱われないような高級食材なのよ!?そんなものをどうやって…」
「いや…普通にマンティコアを倒した時に巣を見つけただけで……あ、チキンナゲットもマンティコアのお肉ですよ」
フレアさんは一瞬呆然としていたが、息を整えて続けた。
「まぁギガントボアをアッサリ倒せちゃうんだから、マンティコアの巣くらい見つけて当然よね」
納得しながら笑顔でチキンナゲットを頬張るフレアさん。
食事を終えて、再び探索を始める。
「………フレアさん、どうやら近くに…」
「えぇ、そうみたいね」
ジリジリと音を立てながら地面が揺れている。その後は段々とこちらに近づいている。フィールドサーチをかけると間違いなくギガントボアだが…
「気をつけて下さい…今回のギガントボアは、この前現れたヤツよりもずっと大きいです。パワーも桁違いの筈です」
「大丈夫!ウルカくんの剣が有れば……」
その時、茂みからギガントボアが姿を現した。前回出会した物よりも一回り大きい。
「ブギィイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」
フレアさんは剣を抜き、突進して来るギガントボアを正面から受け止めた。
「フレアさん!!!?!」
ギガントボアの突撃は、剣で攻撃を防ぐフレアさんを10メートル近く後ろへ押し進めた。しかしフレアさんに動じる素振りもなかった。
「うぉりゃああああ!!!!!!!!!」
突進するギガントボアの牙を弾き、その拍子にギガントボアの右側の牙をへし折った。
「せぇいやぁああああああ!!!!!!!!!」
そのままよろけたギガントボアの右頬に斬撃を喰らわせる。
「プギイィイイイ!!?!?!!」
「くっ!浅かった…もう一発!」
横薙ぎの一閃を喰らわそうとしたその時、ギガントボアはよろけた体を無理矢理起こし、森の中へと姿を消した。
「あっ!?待てぇえええ!!!」
「ふ、フレアさん!!?!」
ギガントボアを追いかけて森に入って行くフレアさんの後を追った。しかしフレアさんの足が速くてすぐに姿を見失い、フィールドサーチをしながら後を追いかけ、日が傾きかけた所でやっと追いついた。するとそこには座り込んで動けなくなっているフレアさんが居た。
「フレアさん!?どうかしましたか!?」
ギガントボアの攻撃を受けてしまったのか?それとも途中で足を怪我したか?色々な不安を抱いたその時、フレアさんが突然泣き出した。
「良かったあぁああ!!!!!ウルカくん来てくれたああああ!!!また迷子になっちゃったかと思ったよおおおおお!!!!」
そう言いながら僕に抱きつくフレアさん。僕は二つの球体の圧に理性を失いかけながら問いかける。
「ふ、フレアさん!ギガントボアは?」
「逃げられちゃった……ってか暗くなって来てない!?ヒィイイイ!!!」
より強く抱きつかれ、理性も限界ギリギリを迎えながらなんとか提案する。
「と、取り敢えず、もう夜になってしまうので、一旦引き上げませんか?」
「うん…そうだね」
少し悔しそうな表情で、やっと体を離してくれたフレアさん。
「…ねぇウルカくん、今日ウルカくんの家に泊まってもいい?」
「えぇっ!?」
突然のお願いにたじろいでしまった。
「だって、どうせ明日もギガントボアを探さなきゃだし、街に帰るよりもウルカくんの家に泊まった方が、すぐに探索に出れるし…お父さんにも依頼が終わるまで帰らないって言ってるから、途中で帰るのもなんだか……ダメ?」
散々理性を削られた上でお泊まりというのは…でも、下手に拒否して意識してると思われてもなんだし、悲しそうな表情のフレアさんを前にして断るのも難しい。
「わ、わかりました…」
「本当!?ありがとおおおおおおお!!!!」
また抱き着かれては理性が持たないので、華麗にバックステップを決めて避ける。
「さ、さぁ!行きましょうか!」
「う、うん……」
キョトンとした表情のフレアさんを引き連れ、自宅へと戻った。