第十三話 ギルドの鬼
初めて来た冒険者ギルド。役所の様な場所を想像したけど、辿り着いた場所は役所というより酒場の様な場所だった。見るからに剛毅な男達が酒を酌み交わし、大笑いをしている。
「おぉ、フレア嬢!ホーンラビットに泣かされやしなかったか?」
「そんなわけ無いでしょ!!ちゃんと討伐出来たっての!!」
「ほぉ、そうかそうか!なら祝杯だな。おいお前ら!今日はフレア嬢の依頼完了祝いだ!フレア嬢の奢りだからジャンジャン飲めよ!」
「ちょっ!お金無いんだからやめてよぉ〜!!」
意地悪なオジサン達とからかわれて不機嫌そうなフレアさん。どこか温かくて家族の様なやり取りだった。
「んっ?なんだその坊主は?まさか……産んだのか!?」
「違うわい!!依頼の途中で会ったの!」
「は、初めまして。ウルカ・ファイトスと申します」
酒を酌み交わすオジサン達に向かってお辞儀をした。
「ほぉ!若いのに随分礼儀正しい奴だ。フレア嬢に連れ回されて災難だったな!」
「いえいえ!僕の方から街の案内をお願いしたので」
「彼、モーゼスの森で生まれ育ったみたいで、街に来るのは初めてなんだって」
「モーゼスの森?あんな魔物と鉱石くらいしか無い森で暮らしてたとは…」
「それで、今日初めて街に来たんだけど、入る時に少し手間取って…」
「なるほど。身分証が無いからギルドカードを発行しに来たってとこか。なら早いとこ登録を済ませて来な。奥のカウンターの姉ちゃんに頼めばすぐに手に入るさ」
「はい、ありがとうございます!」
カウンターに向かい、受付嬢に話しかける。
「フレアさん、お帰りなさい」
「討伐証明のホーンラビットの角10本だよ」
フレアさんが取り出したズタ袋を受け取った受付嬢は、中身を確認しながら何かを計算していた。
「はい、確かにホーンラビットの角10本、確認いたしました。それではコチラが報酬の銀貨10枚になります」
「ありがとう!コレで暫くは安泰だよ〜!」
半泣きになって銀貨を受け取るフレアさんは、僕の視線に気づいてハッとした様に受付嬢に向き直る。
「と、ところで!彼の冒険者登録をお願いしたいんだけど!」
「はい、かしこまりました。それではこの書類に記入をお願いします」
受付嬢から渡された書類の欄には名前、生年月日、出身地、人種などの役所の様な欄に加えて、使用する武器や職業の欄も有った。
(武器はハンマーで良いとして、職業はどうしようかな?)
欄の横には職業の例として戦士、魔法使い、アーチャー、斥候など並んでいる。
「………んっ?『鍛冶士』?冒険者の職業に鍛冶士なんて有るんですか?」
「はい。そんなに多くは無いですが、コチラのギルドにも三人ほど登録されてる方がいます。ただ、冒険者としての活動の為というよりも、身分証として手に入りやすいから登録している、という理由がほとんどです」
登録したら必ずしも冒険者業に勤しむ訳では無いんだな。
「もしくは、金銭的に余裕のあるパーティに、武器の手入れの為に同行する場合もあります。冒険者に同行すれば珍しい素材が手に入りやすいので」
「そんなやり方もアリなんですか?なんだか戦闘に参加しないで良いとこだけ持って行ってるようで、パーティの人に嫌がられたりしないんですかね?」
「ただでさえ鍛冶士の存在は貴重な物なんです。鍛冶士が旅に同行してくれるだけで、パーティとしては大助かりなので、そんな事で目くじらを立てる冒険者はいませんよ」
ミスリルが打てるだけで王宮専属になれる程だ。鍛冶士は相当数が少ないんだろうな。
僕は職業の欄に『鍛冶士』と記入して提出した。
「確認させて頂きます。…ドワーフの鍛冶士さんなんですね!そうなると、パーティからのスカウトもあるかも知れませんね」
「そうなんですか?でも申し訳ない話、僕は身分証目的なので…」
「強制では無いので、都度断って頂いて問題ありませんよ」
受付嬢は書類をしまい、カウンターに水晶玉を出した。
「では、コチラに手を乗せて頂き、ステータスや犯罪歴の有無など確認させて頂きます」
僕が水晶玉に手を乗せると、ステータスが表示された。
『ウルカ・ファイトス』
Lv60
HP 3100
MP 3100
STR 200
VIT 200
INT 250
RES 200
DEX 400
AGI 300
LUK 350
ステータスが表示されると、フレアさんと受付嬢が絶叫した。
「れ、レベル60!?!!?」
「私より若いのにレベルが私より10も上!?しかも何このステータス!!?なんで!?」
「ど、ドワーフ特有の事で、戦闘だけじゃ無くて、鍛治や建築、料理なんかの生産行為でも経験値が入るのでそのせいで。ステータスは生まれつきの運のお陰で上がりやすくなっててそれで…」
驚きながらも納得している二人を見てホッとした。転生者特有のチートとは言えないもんな…
「そ、それでも!フレアさんには体力や筋力では敵いませんから」
「フレアさんは、クラトス様の血を継いでらっしゃいますから」
フレアさんが誇らしげに胸を張る。
「犯罪歴なども無いので問題ありませんね。それではコチラがギルドカードになります!」
「ちょっと待てぇえ!!!!!」
受付嬢からギルドカードを受け取ろうとした時。奥から大きな声が聞こえ、大柄な男が現れた。
「マスター!どうしたんですか?」
「おいキリエぇ…なんで武術試験もしてない奴にギルドカードを渡そうとした?」
「ウルカさんは鍛冶士としての登録です。戦闘に参加しない職業の方には必要無いと…」
「コイツはまだガキだ!半端に冒険者に憧れでもして、ロクな準備もせず前線に立とうとするかもしれん!」
「ですからウルカさんは身分証の為に…」
「おい坊主ぅ!!!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
いきなりこっちを向いて大声を出して来たので、思わず声が裏返った。
「こっちへ来い…腕を見てやる…」
そう言って奥の方へと歩いて行った。
「はぁ…また始まった…」
キリエと呼ばれた受付嬢がため息をついた。
「ギルマスはこうなったら止められないよ。ウルカくん、取り敢えずついて行ってあげて?」
「は、はぁ…」
大声と高圧的な態度に、前世でのブラック企業経験を思い出してしまった。異世界に来ても理不尽に扱かれてしまうのかと、気を重くしながらギルドマスターの後を追った。
そこは恐らく戦闘訓練を行う屋内広場の様な場所だった。そこでギルドマスターは、ゴツくて大きな斧を持って立っていた。
「エモノはお前の愛用品で構わない。どっからでも打ち込んでみろ」
そう言いながらギルドマスターは僕に対して静かに威圧した。ビビりながらも僕はヴォルカヌスの神槌を取り出した。
「ほぉ……随分綺麗に装飾されたハンマーだな。だが、それだけじゃ無い特別な力を感じる…」
ヴォルカヌスの神槌の真価に気付いてるのか、臨戦体制になって待ち構えるギルドマスター。
(下手な攻撃をすれば大変な事になりそうだ……気を抜かずに行かなきゃ)
僕は神槌を構えて、一気に間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。
「『アクセルステップ』『一閃』!」
「ぬおぉっ!?!??!」
不意を突かれたギルドマスターは、斧を急いで構え、一撃を防いだ。
(流石にコレじゃ通らないか…それなら!)
「『破砕撃』!『兜割』!!!」
「ぐうぅっ!!?!…ぬぅん!!!!」
ガードしている斧を弾くことは出来たが、兜割は手甲で防がれ、武器諸共宙に吹き飛ばされた。
(くっ!?コレもダメか!だけど今の状況を逆手に取って…)
「『ウィンドブラスト』!『フレイムアロー』!」
「ぐっ!!魔法も使うか!しかしこの程度…」
(そう…こんな初級魔法が効くとは思ってない…本命はこっちだ!)
「『エリアルスティング』!!!」
ギルドマスターの真上から、ハンマーを突き刺す様にして突撃する。
「ぐうぅっ!!!!?!…中々やるな…だが!!」
再び僕の一撃を弾き飛ばす。
「くぅっ!!!?!」
地面に叩きつけられる寸前で体を翻し、体勢を立て直したその時、ギルドマスターは目の前で斧を振りかぶっていた。
「スキルに頼り過ぎだ!小僧ぉ!!!!」
(確かにスキルを多用していたけど…僕の狙いは、ココだ!!)
僕はギルドマスターが振り下ろす斧を、ヴォルカヌスの神槌で薙ぎ払った。
「な、なに!?!」
薙ぎ払われた斧は、バキバキと音を立てて砕けた。
「……まさかこんな事が……」
肩で息をする僕の前で暫く黙り込んだギルドマスターは、小さくほくそ笑み、僕に話しかけて来た。
「参った。ここまでやるとは……合格だ。ギルドの登録を許可する」
なんとかなったと思い、ホッとした所でふと我に帰った。
「ハッ!!す、すみません!!!お、斧が……」
「んっ?あぁ…気にすんな。城下町の鍛冶屋なら直せるはず…」
「どこかに鍛冶場は有りませんか!?」
「あっ?あぁ鍛冶場は有るが…この街の鍛冶士なんか大したもんじゃ…」
「場所を教えてもらっても良いですか!?直します!!」
「……坊主、お前鍛冶士なのか?」
「はぁ…ウルカくん大丈夫かなぁ…」
「まぁ、ギルドマスターの事ですから、大事にはならないでしょうが…」
「ひぃいいい!!!!」
「い、今の声ウルカくん!?」
僕は訓練場から勢いよく飛び出した。
「い、急いで行ってきます!!!」
「お、おい坊主ぅ!!気にしなくて良いって言ってんだろ!!」
僕と僕を追いかけるギルドマスターは、ギルドの外へ飛び出した。
「な、何事ですか!?」
「あ、あたし行ってくる!!」
その後をさらにフレアさんが追いかけて来た。
街の鍛冶屋に着いた僕は、すでに作業を始めていた。
「なぁ…これはどう言う事なんだ?見知らぬ子供が入って来たと思ったら、その後ろからギルドマスターとフレア嬢までやって来て、いきなり鍛冶場を使わせろだなんて…」
「まぁ…俺もよくわからんのだが、取り敢えず場所を貸してくれ」
「ウルカくん。それ直せるの?」
「もう少し待ってて下さい……よし、出来た!!」
『戦鬼の大斧⭐︎MAX』
希少級
ATK600
スキル
『破砕撃』『挑発』『戦鬼のオーラ』『ギロチンアックス』『トルネードアックス』
「お、おぉ!!?!な、なんだこりゃ!!?前よりもずっと良い仕上がりじゃねぇか!?」
「な、なんつう腕前だ、この子供は!?こんなの王宮専属…いや、それ以上じゃねぇか!?」
「やっぱりウルカくんすごいよ!!」
無我夢中だったとは言え、『創造主』と『ヴォルカヌスの神槌』の力をフル活用してるところを見せた上、希少級の武器をアップグレードして良かったのだろうか?まぁ今回は僕が壊しちゃった物だから、多少は融通効く…かな?
「いやぁお前さんすげぇなぁ!!武術も鍛冶も大したもんだ!ギルドに戻ったら間違いなくギルドカードを発行してやるよ」
「あ、ありがとうございます…」
ギルドマスターが僕の背中をバンバン叩きながら僕を称えてくれた。
「改めて、俺はギルドマスターの『ゲオルド・オーグル』だ。ようこそ我がギルドへ!」
「良かったね、ウルカくん!」
やっとギルドに登録出来ると思い、ホッとしていると、またもやゲオルドさんが話しかけて来た。
「ところで…………登録の件とは別で、少し確認しておきたい事がある。今からギルドの俺の部屋まで来てくれ」
「んっ?何かあったの?」
何かまずい事をしたかと不安に思いながら、ギルドマスターの後をついていった。




