第十一話 禁忌の呪い
祈りを捧げてやって来た白い空間には、少し困った顔で頭を捻るカミスワさんが居た。
「まさか異世界人第一号でこんな人に当たるとは…幸運ゆえのものか、もしくは転生者の運命なのでしょうか」
「やっぱり状況はご存じですよね…」
カミスワさんは神妙な面持ちで僕に問いかける。
「ウルカさんは、あの武器を直すおつもりですか?」
「……事情を聞いた以上、放っておけないです」
「しかし彼女…フレアさんの持ち込んだ武器は間違いなく『神話級』の武具。更には神話級の中でも限りなく『神器』に近い代物です。しかもあの武器にかかっている呪いは人知を超えている、いわば『神』の所業です」
「神様があの武器に呪いを?」
「いえ、それは考え難いです。以前も申し上げた通り神は人間の事には極力不可侵。神話級とはいえ、神が直接このような呪いをかける事はあり得ません」
「それならどうして?」
「……いずれわかる事でしょう…」
含みのある言い方にモヤモヤしていたが、カミスワさんはそのまま続けた。
「それで、どうされますか?『神話級の武具の修理』『神力クラスの呪いの解呪』いずれも禁忌と呼べる行為です。神罰を与える事はありませんが、もし行えば、あなたもフレアさんも大きく人生を変えてしまう行為。しかも、万が一フレアさんが武具を悪用したり、あなたを利用するような考えに至れば、世界すらも大きく揺るがす厄災になり得るでしょう」
「……僕はどうすればいいでしょうか?」
「残念ですがそれは私にはお答えできません。この選択はウルカさん自身で決定しなければなりません。あなたの見えるもの、感じるもので判断するのです」
「そんな……」
「残酷にも思えますでしょうが、これは転生者であるあなたに委ねられた世界の選択なのです。迷い、悩み、そしてどうか世界に光をもたらして下さい」
カミスワさんがそう言うと、意識は現実へと引き戻された。
「……どうすればいいんだろう」
僕の後をついて来て、フレアさんが祭壇部屋に入ってきた。
「ウルカくん、どうかした……わぁ…すごいねこの部屋!」
祭壇部屋の中を興味深そうに見まわすフレアさん。
「そこに祀られてるのってイリス様だよね?」
「え?いやこれは……」
そういえばカミスワさんはこの世界では『イリス』で通ってるんだった。なんか嫌がってたけど。
「難しいことをお願いしちゃったから神託をもらいに来たの?ウルカくんって若いのに信心深いんだね。……でも私はあんまりイリス様のこと、好きじゃないんだよね……」
悲しそうな顔をしてそう言うフレアさんに、何かの事情があると察した。
「……あっ!違うの!別に大したことじゃなくて……ごめんね。信奉してる神様を悪く言って…」
「いえいえ!たまたま前の住人が残した祭壇を残しているだけなので。そ、それより!さっきの武器の事なんですけど」
神話級のことや禁忌の話を、カミスワさんから聞いたそのままで伝えたところで、フレアさんを混乱させてしまうだけだろう。やんわりと困難な事を伝えておく事にした。
「やっぱり修理するのは難しそうで……」
「…そうだよね」
あからさまに暗い表情になったフレアさんは見ていられなかった。
「す、少しだけ試行錯誤させてもらいたいので、預かっても良いでしょうか!?」
「う、うん。もちろん!…でもその間の依頼はどうしようかな…」
「預からせてもらっている間、良ければこれを使ってください!」
僕はアイテムボックスから大剣を取り出した。
『ミスリルの大剣☆MAX』
攻撃力300
スキル
『兜割』『百胴貫』『オートパリィ』『挑発』
「こ、これって……ミスリルの武器!?」
「これで代わりになれば良いんですけど…」
「か、代わりだなんて!むしろこんなに凄いもの使わせてもらって良いの!?」
「あぁ、鍛冶の練習でたくさん作ったものなので大丈夫ですよ。それ差し上げるので使ってください!」
「えぇ!?くれるの!?修理をしてもらえるだけでも有難いのに……ウルカくん…」
フレアさんがワナワナと震えている。
「あぁりぃがぁとおおおおおお!!!!!!!」
フレアさんが僕に駆け寄り抱き着いてきた。正直先ほどから目のやり場に困っていた、ビキニアーマーで抑え込まれていた大きな球体二つに顔を押しつぶされ、窒息しそうになりジタバタともがく。
「あっ!ごめんごめん!私ったらつい……」
「い、いえ。大丈夫です…」
正直呼吸よりも理性が持たない所だったので助かった。
「これだけ良くしてもらっておいてなんなんだけど……私、お金が全然無くって…」
「お金なら大丈夫ですよ。『物作り』は趣味なんで」
「ふうぅん?」
なんかいまいちピンと来てない様子。無償でこんなことやるのは変なことなのかもしれない。
「でもやっぱりなにかお返しさせて欲しいよ!私にできること、何か無い?」
「うーん…そう言われても」
フレアさんにお願いしたいことは何かあるか。フレアさんをじっと見ながら考えていると、段々フレアさんの顔が赤くなっていった。
「…そ、そうだよね。ウルカくんも男の子だもんね……」
なにかよからぬ勘違いをされているようだ。弁明しようと思ったその時、お願いしたいことを思いついた。
「そうだ!近くの街を案内して欲しいです!」
「う、うん!ウルカくんが望むなら私!……って、え?そんなことで良いの?」
「はい!僕ずっとこの森で暮らしてきたので、街に行ったことが無くて…案内してくれる人がいれば安心だなぁ…なんて」
「あ、うん!もちろん!そんなことで良ければ喜んで!これから依頼の報告があるから、今から行こうか?」
「はい!よろしくお願いします!」
早速準備をし、家を出て街へと向かうことに。




