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第一話 転生の設計図

 

 小さい頃から『物作り』が好きだった。


 粘土工作やクレヨンのお絵描きに始まり、彫刻、油絵、陶芸、服飾、料理やお菓子作り、果てには溶接の免許まで取得。大学は親の反対を押し切り地元でも有名な美大に進み、休みの日はDIYに励むと言う自他共に認める『物作りバカ』だった。


 そんな僕も既に30歳、今俺は何をしてるかと言うと……薄暗い倉庫でひたすら画材の数を計算している。

 

 美大での4年間はひたすら才能の壁に頭を擦り付け、好きと得意は別物だという事だけを学んで卒業した。就職に焦った僕はなんとか美術関連という事で画材の販売会社に入社するも、コレがとんでもないブラック企業だった。終電過ぎても帰れないなんて当たり前、残業代無し、有休無し、福利厚生全く無し、あるのは果てしない仕事量と上司の小言付きの無茶振りだけ。今日も上司に肩を叩かれ「倉庫の在庫管理やっとけよ」と言われたのは業務終了時間の2時間後の事だったが、こう言う時の断り方は美大では教えてくれなかった。


「なんでこんな事に…」


 力無く呟きながら脚立を登り、棚の上のクレヨンの数を数え始めた。あの頃は輝いて見えてたクレヨンも今はどんよりとして見えるのは、倉庫の暗さのせいなのかはたまた…

 そんな事を考えていると慢性的な寝不足の影響か、グラリと地面が揺れる感覚に襲われた。


「あぁ…ヤバい……」


 そんな事を思った次の瞬間に脚立は倒れ、ズダアァァァン!と落下の衝撃の全てを後頭部で食らい、僕の意識は……闇に………………





 目を覚ましたらそこは一面真っ白な世界だった


「………あぁ、コレは死んでるなぁ………」


 自分でも驚く程冷静に状況を飲み込んだ。死後の世界ってもっとお花畑とか、雲の上とか、或いは溶岩だらけの地獄みたいなところじゃ無いの?とか言う下りも無しで、自分がもう死んでる事を悟った。


「驚く程冷静に飲み込むんですね?」


 突然聞こえた声の方を向くと、金色の綺麗な長い髪、白い布一枚を体に巻いたような格好の綺麗な女性が居た。


「あ、女神様だ」


「いやだからですねぇ…もっとこう…『ここはどこ?』とか『あ、あなたは一体!?』みたいなそういうリアクションじゃ無いんですか?」


「すみません…自分でもなんでこんな落ち着いてるかわからないんです…」


「いや、別に責めてるわけじゃ無いんですよ?なんと言うか……まぁこんな事話しててもしょうがないですね。それでは気を取り直して」


 女神らしき人は強めに咳払いをして、穏やかな表情をこちらに向ける。


「よく聞きなさい…貴方は残念ながら天寿を全うする事なく、30年という短い生涯を終えてしまったのです」


「はい、重々承知しております」


「返事しなくていい」


「あ、すみません」


 女神様は再び強めに咳払いをした。


「幼少から抱いていた夢も潰えて、希望も色気も無く只々忙殺される毎日の末、あまりにも酷くしょっぱい最後でした」


「……人の死に方をそこまで言います?それに希望がない事も無かったですよ?」


「色気が無いのは事実でしょう?」


 ニッコリと事実を突きつけられ、ぐうの音も出ない。


「そんな運のかけらも無かった貴方には朗報かも知れませんが、貴方に転生のチャンスが与えられました」


「運のかけらもってのは引っかかるけど……転生?ラノベとかでよく聞くアレですか?まさか本当にあるなんて…」


「ありますよ。ていうか大元の転生モノのラノベを書いたのは、転生したのちに再び元の世界に転生した経験者ですから」


 そんな逆輸入的な実体験小説だったとは。


「一応確認しますが、転生希望されます?」


「あぁ、それは是非とも」


 僕の返事を聞いた女神様はニッコリと笑った後、目の前に手を翳すと宙に浮く本が現れ、ペラペラとページをめくり始めた。


「転生モノのラノベを読んだことがあればご存知の展開でしょうが、これから転生先での希望等を伺いますので」


「いわゆるチートってヤツでしょうか?」


「まぁ平たく言えばそんな感じです。転生先の世界の均衡を崩さない為に、何でもかんでも叶うわけではありませんが、取り敢えず一通りの希望を言ってみてください」


 やたらと事務的な物言いのせいで物件探しみたいだなぁと思ったが、新しい人生の事、真剣に考えて希望を述べる事にした。


「ではまず…『物作り』の才能を下さい」


「というと…クラフトという事でしょうか?」


「まぁそんな感じなんですけど、クラフトって念じればなんでも出来ちゃうヤツですよね?そう言うんじゃ無くて、もっと作る過程も楽しみたいと言うか……」


「あぁ…なんと無くわかりました。ではステータス、スキルに丁度よく補正をかけておきますね?」


 女神様は宙に浮いた本に羽のペンでサラサラと何かを書いてる。


「ちなみに人間と言う種族に未練は有りますか?」


「えっ?…どう言う意味ですか?」


「物作りの才能となると、人間よりも『ドワーフ』に転生した方が都合が宜しいかと」


「ドワーフ?…それって背が低くて髭モジャのヤツですよね?あれはちょっと抵抗あるかなぁ…」


「あぁ、貴方の転生する世界のドワーフの見た目は、子供の様に小さなまま大人になる種族で、貴方のイメージする物とはだいぶ違いますよ」


 成程、○ァイナル○ァンタジー的なヤツか。まぁ曲がりなりにも30年人間やったし、別にまた人間になりたいって事も無いな。


「ではドワーフでお願いします」


「かしこまりました。では他に希望はございますか?」


 自分の事に関する希望と言えばそれくらいしか無いけど…


「あとは…なるべく争い事には関わらない様にできるとありがたいんですが…」


 ファンタジー世界といえば、資源や領土の奪い合いだったり、魔王が登場したり、なにかと物騒なイメージもあるからなぁ…


「はい、承りました……と言いたいところなんですが、そのお約束は難しいですね」


 女神様は少し悲しそうな顔で言った。


「やっぱり…戦争とかは有るんですか?」


「どこの世界でも貧富の差や、考えの違いで争いは起こってしまう物です、だからと言って貴方も前世では、国同士の諍いに関わったことは無いでしょう?積極的に干渉しなければ安全なのは、貴方の世界も転生先も変わりませんから」


(…初めてこの人ちょっと神様らしいこと言ったな…)


「……神ですからね?」


(心が読めるのか!)


 誇らしげな女神様の顔にちょっとイラッとしながら、僕はまたある不安がよぎった。


「……争いの原因として、種族とかも挙げられたりしますか?」


「いえ、それは有りません。転生先の世界は、あらゆる種族が手を取り合い、差別無く暮らしていますのでご安心を」


 それを聞いて僕はホッと胸を撫で下ろす。


「他に希望はございませんか?」


「はい、大丈夫です」


「あまり欲の無い方ですねぇ……それなら不運だった人生を考慮して、運も少しサービスしておきますね」


「だからハッキリ不運って言わないで下さい」


 僕がそう言うと、女神様は少しイタズラっぽく笑った。


「それではそろそろ転生と参りましょうか」


「あぁ…もうお別れなんですね」


 なんだか女神様ともこれまでと思うと、少し寂しくなった。


「あら珍しい、転生者の方が私に一目惚れなんて」


「そういうことじゃ無いです!」


 再びイタズラっぽく笑う女神様。


「向こうの世界で教会に来て頂ければ、いつでも対話出来ますので、あまり寂しがらないで下さい」


 なんだか良いように転がされてる気分で、不満に思いながらも、少し安心した。


「では…新しい人生が、幸溢れるものであらんことを…」


 女神様が祈るように手を合わせると、僕の体は光に包まれた。


「なんだかんだ色々とありがとうございました!」


「いえいえ、私も久々に沢山お話しできて楽しかったです。どうぞ楽しんで下さいね」


僕は女神様に見送られて、新たな世界へと旅立った。


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