王国の騎士
今回かなり短めです。
私はエミリアン・ベルリオーズ。我らが誉高き水の王国の国王陛下より、騎士爵位を賜っている。
本来ならば私は貴族の一員なのだけど、どう考えても爵位は最底辺。
故に貴族というだけなら他の自分より爵位の高い方々から見向きもされない。
仮に威張るとしてもせいぜい平民相手か、自分より実力の劣る騎士爵位の者、と言った感じか。
ただまあ、私の場合は陛下より、下位の士官という形ではあるけど近衛軍の軍人に任命されている。
なので他の貴族も私に注目してくれているわけだ。
まあ、そんなことはさておき、私は先ほどあり得ないほど優秀な潜在能力を秘めた少年に出会った。
今はもう既に街を出発しているのだけど、正直あの場に長時間いるのは難しかった。
なぜって? あの街の人々は戦や修羅場は経験していないだろうから分からなかったのだろうけど、彼はとんでもない精度で魔力を制御している。
私は騎士なので魔法は補助効果を装備に付与したり、時折魔法を織り交ぜて戦う程度だけど、彼はそれこそ宮廷魔導士並に魔法を扱えることだろう。
そして何より、
魔力量が化け物じみている……そう、まさに私が先刻出会った魔物すらも超えて、宮廷魔導士も超えてととんでもなかった。
ちなみに魔物というのは魔力を持ち、魔法とは違った別の特殊な能力を使う者達だ。
だがその共通点は魔力を扱うこと。そして冥府の森に出てくるような魔物は総じてとんでもない魔力を有している。
私は彼らと同じ威圧感を彼の少年から感じた。
なので正直いえば少しあの少年に怖気付いたというのがある。
これは本来ならばあり得ないことだ。一体なにが起こっているのかは私には想像もつかない。
だが一つ分かることは彼は凄い人物になるだろうということだ。出来るならば可能な限り彼の力になってやりたい。
しかし私がそれを望んでもおそらく状況や環境がそれを許してはくれないだろう。
それは彼が炎魔法使いであるということ。私以外にも属性にこだわらず、優秀な魔法使いはどんどんと優遇すべきという思想を持った人はいる。
だがあくまで少数だ。お国の上層部は皆がご先祖である水の英雄とその英雄に力を与えた女神様に崇拝の念を抱いている。故に炎魔法使いは好敵手的な属性であることも相まって確実に煙たがられる。
そして私には彼らに逆らえるだけの地位も権力もない。
そういうわけで私は彼の将来に期待する。彼が超絶優秀な魔法使いになって、お国に縛られないくらいの人物になれば、国家だって迂闊な真似はできない。
そんなことをすれば王城ごと消し飛ばされかねないからだ。なのでそれくらいの優秀な人物に育ってくれれば、お国だって彼の言うことに耳を傾けざるを得ない。
そして私に出来ることといえば、お国が彼を排除しようと直接的な手段を用いたときには、騎士という人々を守る存在という大義名分の名の下に彼を助けようと思う。
それ以外はどうしても私の身分では彼を助けてあげられない。全く、もどかしい限りだ。
どうして差別などというものが存在するのだろう?
皆同じ人間なのに、同じ赤い血を宿し、母なる大地、命の象徴たる太陽、それらに見守られて生きる存在なのに……
とにかく今はいろいろ考えても仕方がない。いずれは彼の存在は王の耳にも届くことだろう。
なので私はあえて彼の存在をあの街以外では口にしない。仮に家族に話したとしても、基本は秘密にするように言っておく。
それが彼への1番の恩返しのような気がしたから。
「さて、次の見回りの土地はこの先馬で半日のところだね」
私は馬に少し急ぐように手綱で指示した。
それから半日弱経った頃、ようやくその町が見えてきた。
「ん? あれは……まさか!? 獅子狼!? なぜこんな場所に……」
倒すことは出来る。だけど、あの魔物がこの地域にいること自体が異常だ。
一体なにが起きているというんだ?
「考えても仕方ないね。取り敢えず倒しに行かないと、町の人たちが危ない」
私は全速力で馬に走るよう指示をして、街に向かっていった。