街の常連騎士
本日もよろしくお願いします!
俺は目の前で壮絶なまでの死闘を繰り広げたと言った感じの騎士を眺めている。
おそらく魔物にやられたのだろう。なんと酷いことを……身近な人というわけではないが、同じ人類の仲間にこのようなことをする奴に憎悪を抱かずにはいられない。
だがしかし、よくよく考えたら彼らも食べていくので必死なんだよな……特に俺たち人間のように文明社会を築いて、食糧生産を安定化できる知性もないだろうから、他の生き物を殺して食べるしかない。
だけど人間を襲った場合、特にこういう騎士のような軍事訓練を受けているような者を襲った場合、逆に殺される恐れがある。
それを本能的にわかるのかもしれない。だから恐怖からより凶暴性を増したりするのかもしれないな。
まあ、意思疎通ができない他種族のことを考えても仕方ない。今はこの騎士様を治すことを考えないと。
「では、騎士様。僭越ながら僕が治療を引き継がせていただきます。初めに申し上げます。かなり見た目に驚かれることと思いますが、あなた様にはなんの害もございませんのでご安心ください」
「あ、ああ。わかった。それ、よりも、はあっ、はあっ、君はどこでそのような言葉遣いを? 平民、だよね?」
「はい、たくさん本を読んだりもしますので、その影響かもしれません」
「そ、そうか……」
騎士様はまだ何か言いたげだ。でもよく考えたら今の言葉遣い、7歳にできるものじゃない。少し軽率だったかも?
俺は自分の前世の記憶のことをまだ誰にも話してないからね。まあ、いいやそんなこと。
とにかく、
「では、行きます」
「た、たのむ」
「不死鳥の慈涙!」
俺が魔法をイメージして唱えた瞬間から、前世のイメージ画でよく出ていたような、綺麗な赤い鳥が出現した。
そして、
「なッ!?」
町長はかなり驚いている。どうやら本当に俺は常識破りなことをしているようだ。
なんせ、騎士様の体が俺の魔法の魔力に触れた瞬間から、次から次へと患部が治っていくからだ。
「こ、これは! 致命傷と諦めていたのだけど……」
そうこうしているうちに脇腹が塞がり、綺麗に治り、腕も骨が正常な形、位置に戻ったようで真っ直ぐに治っている。
「感謝するよ少年! この恩は忘れない! それよりも不躾なことを聞くようだけど、君は炎適正なのかい?」
騎士様の体が治り、みんなが和やかムード&俺への感心と驚愕、と言った感じだったところへの騎士様のこの発言。
みんな心配そうに俺の方へ向き直る。
まあ、恩は忘れないと言っているので大丈夫とは思う……けど差別が実在するらしいからみんな不安なんだろう。
みんな俺のことを実の子供のように可愛がってくれたしな。
そんな空気の中俺は、
「はい、そうです」
「そうか、なんともまあ珍しい属性だね」
俺は不安ではあるけど、この騎士様が仮に俺を差別して酷いことをしようとしても、俺がこの村から出ていけばいい。
みんなと会えなくなるかもしれないのは本当に残念だけど、事実として差別があるのであれば、俺がこの村にいては村のみんなが被害を被る可能性がある。
それこそ、炎魔法の国に行って冒険者を目指すのもありかもしれないんだから、後のことは後で考えればいい。
なので俺は正直に、この騎士様に自分の属性を伝えた。
「世にも珍しい水の王国における炎魔法使いの少年よ! 君の尽力によって私は九死に一生を得た! 本当に感謝する。それにしてもその年齢でその実力……本当に素晴らしいね」
「あ、ありがとうございます。お役に立ててよかったです」
「うむ、本当に助かった。私はこの街の常連でね、仕事で立ち寄った時は、旅の疲れを癒すために、この街で獲れるうまい麦から作られる新鮮なお酒を頂きにくるんだ」
「そうだったんですね。では今夜は騎士様というお国にとって、とても貴重な方の命が助かっためでたい日です。お酒も美味しく召し上がれるのでは?」
「ははは! 確かに、違いない! それにしても君は本当に聡明な子だね。切り返しが大人並みで言葉遣いも貴族並ときた。本当に不思議な子だ」
「あ、お褒めに預かり光栄です?」
「ははは! なぜ語尾に疑問符がつくのかな? あははは!」
俺が苦笑いで対応していると、町長がようやく我にかえり会話に戻って来てくれた。
「そ、そういえば騎士様。先刻のあの強大な魔物、一体何者なのですか? 今まで貴方様は、逆に魔物を圧倒しておられた。そんなお方が深傷を負ってしまわれるほどの力を持つ魔物など、本来、畑しかないこんなド平原の土地に現れるはずがありませぬ」
「ふむ、確かにそうですね。町長殿の仰る通りです。あれはもっと北の"冥府の森"と呼ばれる、強大な魔物ばかりが跳梁跋扈する場所に生息する生き物です。ちなみに森の二つ名が"冥府"なのはあの森に入った者で生きて帰った者はごく稀で、帰ったとしても五体満足で戻ってきた者はいないとまで言われる危険な森だからです。殆どが屍と化す。故に冥府の森なのです」
「なんと……恐ろしい」
最近魔法も剣術もメキメキ上達してきて、それこそ魔法に関しては今証明されたように、騎士様にも褒めてもらえるレベル。
そんな俺でも流石に今の話は絶句ものだ。怖すぎるだろ、しかも町長の話ではこの騎士様はめちゃくちゃ強い。
そんな騎士様でも一方的に蹂躙されるほどの魔物がその森にはアホほど居るということか、そりゃ生きて帰ってこれねえわ……仮にめちゃくちゃ強い冒険者でも、森に一度入れば休憩や野営は必要だ。
だけど魔物からすれば常に飢えているから、人間の事情なんて知ったことではない。
だからそういうタイミングで襲われていると俺は勝手ながら分析した。
「ご事情は把握しました。本当にあなた様のお力になれてよかったです、ところでその魔物は今はどうなっているのですか?」
「私が差し違えてでもこの街を守るという姿勢と実力を見せた甲斐があったのか、撤退していったよ。実際、なんとかギリギリという状況ではあったけど、あの魔物をズタズタにすることはできたからね。奴に襲われている人々を守れて心底ホッとしたよ」
「そうですか、僕たちの街を救っていただいたのですね」
「なに、騎士として当然のことをしたまでさ」
「心より感謝申し上げます」
俺がそう言うと、なぜか俺が代表みたいになって、その後町長含め、街のみんなまで騎士様に最敬礼をした。
いや、なんでやねん……俺町長じゃねえべ。
とまあ、そんなこんなで、なんとか騎士様を救うことに成功した。
これで俺の治癒力は結構な重症にも聞くと言うことが判明した。
いろいろなことがトントン拍子に起こりすぎて、疲れたけど、結果的に一つ善行も積めた。
まあ、自分の作った魔法がどれほど効果があるのか把握するための実習授業だったと思えば、儲け物だろ。
いや、それ以上の価値かもしれない。
とにかくよかった。
その後、騎士様はこの街に来る際、乗ってきた馬に乗って颯爽と次なる目的地へと去っていった。
その背中はまさに騎士だった。