街に戻り、
なんとか本日2話目いけました。
俺たち家族は適正診断が終わってすぐ、シスターにお礼だけ言ってから教会を後にした。
ここからまた、自分たちが住んでいるエリアまで馬車で移動しないといけない。
本当に最近つくづく思うんだけど、この街結構広いよな。いち街の中だけで馬車で移動しないといけない場所があるところなんてそうそうないと思う。
そんな感想を今更抱きながら馬車に揺られること30分ほど。
自分たちが住んでいる街まで戻ってきた。
と、その途端に街の中から続々と人が集まってきた。
「診断は終わったんだろ? どうだったんだい?」
みんなを代表して1番早くきていた、俺の出産を担当してくれたという助産師のおばさんが尋ねてきた。
「ええっと……」
俺が何から話したものかと悩んでいると、父さんが前に出て事細かに全てを話してくれた。
すると村人たちの反応は、
「凄いじゃないかい! あんた王様を守る最高峰の魔導士達よりも魔力が多いんだろ? 昔から聡明で明るくて頑張り屋さんで才能に溢れていると思っていたけど、まさかこれほどとはね! あははは!」
「ほんとだぜ、そんな魔力持ってて魔法を練習して使えるようになったら逆に俺らの弱っちい水魔法じゃ有利になるどころか消し飛ばされそうだな! ははは!」
他にもいろんな人が声をかけてくれて、こちらの方が驚いた。相手にされなくなることはないだろうとは思っていたけど、むしろより好意を持ってくれるなんて思いもしなかった。それと同時に思った。
(俺は本当にいい人や環境に恵まれたな。これ以上ない幸せ者だよ)
俺はまた泣きそうになるのを堪えた。ダメだ。この世界に来てから涙もろくなってる。
それもこれも優しすぎるみんなが悪いんだ! なんて理不尽な不満を心の中で言ってみる。
そんなしょうもない冗談を考える余裕ができるほど、今の俺は幸せを噛み締めている。
すると街の人の1人が、
「セド、お前なんか前より柔らかい顔つきになったんじゃないか? 前はもっとこう、何かに緊張しているというかなんというか、とにかくそんな感じだった。でも今はどこか憑き物が取れたような表情をしてるな。前から男前だったが、お前、また一段と男らしくなったんじゃないか?」
そんなふうに冗談めかして言われてしまった。そんなところまで見てくれていたんだという感心と、いきなり男前とか男らしくなったとか褒め倒されると恥ずかしいという気持ちで、なんだか照れ臭くなった。
「そうだねえ、生まれた時からあんたはいい顔立ちをしていたから、将来はいろんな女の子が恋愛競争に負けて泣くことになるだろうと思っていたけど、今となってはそれは確定事項さね。ほらあっちの一塊になっている女の子達を見てみな」
また褒められて恥ずかしくなりながらそっちの方を見ていると、5、6人ぐらいの女の子がみんな顔を赤面させながらこっちを見ていた。
そして俺が見つめ返した途端、びっくりして奥の方に走っていってしまった。
「でも、おばさん。俺あの子達と普通に遊んでただけで、おばさんの言うような気持ちを向けてもらえるようなことは何もしてないよ?」
褒められるのは嬉しいが、純粋な疑問だったので問うてみた。
すると大爆笑が返ってきた。
「ははは!! あんたほんと大物だよ! あんだけ昔から分かりやすい行動取られてたのに気づくどころか、何かしらの違和感を抱くことすらしなかったのかい? こりゃいい意味で罪な男になりそうだねえ。面白いよ全く!」
え? アプローチされてたってマジで? 普通に同じ街の出身で近くには本当に数人の子供しかいなくて、一緒に遊ぶのが当たり前になってたから、単純に俺と仲良く遊んでくれているだけだと思ってた……ああ、そういや今思うと前世でも何人かの女の子に『沢村くんってほんと鈍感だよねー』って呆れられたことが何回かあったな。
まあ、今はそんなことどうでもいいや。どうせまだ恋愛云々とかいう年でもないんだし、もう少し経ってからそういうことは考えよう。
そんなこんなで、みんなへの報告がひと段落した後、宴会が開かれることとなった。
もちろん俺が住んでいるエリアの近辺だけでの話だ。
この宴会はこの間もやったなー。このあいだは俺よりもひと足先に診断に向かった同年代の女の子が1人いて、その後の宴会が開かれたんだ。
名前はアニエス。この子が今のところ1番気心が知れて、馬鹿な話もしあえるほどの中だ。
その子が今隣に座ってきた。相変わらず控えめな性格の割に元気な子ではあるから、変なところで男の子っぽいところがあり、今も串焼き肉を頬張って、モグモグしている。
本当に面白い子だ。
「それで? 炎だったんだって?」
「うん」
「魔力量がとんでもなかったって言うのも本当?」
「うん」
「そっかあ」
なんだか落ち着かないな。意外と家族以外ではこの子に1番知られたくなかったかも知れない。
「凄いじゃん!」
「え?」
「何変な顔してんの? 確かに属性の話はびっくりしたけど、それよりも魔力がお国の魔法使いさん達よりも多いなんて、カッコいいじゃん!」
その満面の笑顔で言ってくる姿に俺はドキッとしてしまった。いやいや、さっき恋愛とかどうでもいいだの、今後考えればいいだの考えていたくせに、ドキってなんだよドキって……いや彼女は凄く可愛いよ? 性格も満点。普通、男の子なら誰でも好きになる可能性がある。
なら俺は? と考えてみた。そしてこの子が他の男の子と笑顔で一緒に歩いているところを想像してみた。
結果、
その男の子を炎魔法で燃やしてる光景が浮かんだ……
て言うのはもちろん冗談だ。そんなことしたらただの人殺しだ。でもそれくらいなんか、モヤっというか、イラッというかそんな感じがした。
はあ、分かってるよ。ここまでくればね? ようはアニエスが好きってことなんだろう。今までにもアニエスが気になる部分はあったのかも知れない。
そんな中で今の笑顔が決定打になったってところだろう。どこか自分はみんなと違うし、受け入れてもらえないだろうとか、勝手に失礼なことを考えていたのかも知れない。
でもアニエスは貶したり、嫌がるどころか、笑顔でカッコいいとまで言ってくれた。
例え恋愛的な意味でなくとも、好きになる理由はあれど、嫌いになる理由なんてない。
「好きだ……」
気がつくとボソッと口から言葉が出ていた。慌てて口を塞ぐ。
「え? 今なんか言った? みんな馬鹿騒ぎしてるから聞こえなかった」
「う、ううん。なんでもないよ」
「そう?」
そう言ってアニエスは食べていた肉がなくなっているのに気づくと、『お肉取ってくる……』と何故か不機嫌そうに歩いて行った。
取り敢えず、俺の内心は、
(あっぶねえ〜〜っ。いきなり何やってんだ俺!)
という感じだ。
まあ、そんなこんなで1番信頼してる友達にも認めてもらえたわけだし、今はそれで満足するとしよう。
いずれは違う意味でも認めてもらえるように努力しよう。
一方その頃、不機嫌そうにお肉を取りに行ってるアニエスはと言えば、
「全く、何よセドの馬鹿……いきなりびっくりするじゃない。でも、なんだか……嫌な気はしなかった。ていうか、嬉しかった?」
アニエス本人も絶賛混乱中。
「もう……本当にバカなんだから……」
その日何人ものちびっ子メンバー達が、普段から冷静な感じのアニエスが、嬉しそうに口を少し綻ばせながら顔を赤面させて歩いていたところを目撃したそう。