適正診断とその後
本日もよろしくお願いします。
俺は7歳になった。そう、いよいよ本番なのだ。
今までの長い時間の中で覚悟は決めていたはずだ。だけど正直、それでも不安が拭えない。
はあ、これだけ周りの人から愛情を注いでもらっていても、根本的な人間不信を治せていない自分に嫌気がさす。
とにもかくにも診断の時は近づいているんだ。腹を括るしかないだろう。
今は馬車に揺られながら町の近くの教会に向かっている。具体的にどんな教会かは調べたらすぐにわかった。
今までにもたくさん勉強はしてきたけど、教会については余裕がなく、あまり触れてこなかったのだ。
そして本題だが、8つの神が昔とある集団に与えた力があった。それらは魔物の暴走になす術がなかった人類に希望を与えたと言われている。
そしてその力が魔法だ。これがまたとんでもない力で本当にこの力で人類は魔物たちを彼らの生息圏にまで一気に押し戻したのだそうだ。
そしてその8つの神から授かった各種属性の魔法の力を1番最初に与えられた英雄たちはまだ多勢残っている人類たちを素早くまとめるために別々に8つの国を立ち上げた。
それが今の人類の国々の形となっている。
そして我が国の教会と民が崇めるのは水の女神。その女神のご加護のもと、俺たち水の王国の民が魔法を使えるのだという。
そして、こうやって宗教や教会について勉強したからこそわかるのだが、どうやら水魔法に縁が深いのは俺が住んでいる地域だけじゃないようだな。
この国そのものが水魔法使いばかりなんだ。それが分かってからは余計に落ち込んだな〜。
だけど、もうどうしようもないんだ。生まれてしまったものは、生まれながらにして保持していた力は変えられない。
今後俺の適性がわかった時の周りの反応が全てなのだ。この国で生きていけるか、否か。
それらが全てわかるだろう。
そうして、また色々と考え込んでいると、どうやら教会についたようだ。
「セド、着いたようだよ」
「はーい、父さん」
「セドちゃん、いよいよね」
「うん、いよいよだね」
俺はなるべく平静を装った。
「それじゃあ、行こうか。中に入ればすぐに診断をしてくれるはずだよ」
「うん」
「そうね、早く入りましょう」
そういって俺らは教会の中に入った。中はものすごく荘厳な雰囲気だ。前世でアメリカに2回ほど行ったことがあるけど、その2回の内の一回は教会に所用で入る機会があった。
その時の整然と長椅子が並べられ、前方に教壇みたいなものがあって、後ろに神をまつる絵画や銅像のようなものがある感じがこの教会とそっくりだ。
やっぱりどの世界だろうと、教会の造りは似るものなのか? いやでも、俺はまだ前世と今世の2回で二つの世界しか見ていないわけだから一概には言えないか。
もしかしたらこの世界と前世の世界以外にもまだまだたくさん世界はあるかもだし。
てな感じで考え事をして歩いていくと、奥の方からシスターのような立場の人であろう女性が話しかけてきた。
「おはようございます。ご用件をお伺いしても?」
宗教関連の人らしく、とても丁寧な言葉遣いだ。
「今日は息子の適性診断をしてもらいたくてね」
「まあ! 七歳を迎えられたのですね! おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
俺のことを心の底から祝ってくれているような雰囲気に思わず俺は反射的に返した。すごいな聖職者って、なんというか話す気なんか特になかったのに、気が付いたら言葉を発させている。
「では、早速ですが準備に入りますので、少々お待ちください」
「分かった、ここで待っているよ」
父さんがそう答え、シスターは満面の笑みで去って行った。
そして適性診断宝珠と言われる占いの水晶玉みたいなのを持ってきた。
そして、
「では、まず初めに。君のお名前は?」
「セドリック」
「いい名前ねえ。じゃあセドリック君、この適性診断宝珠に手をかざしてくれますか?」
「はい」
そして俺が手をかざすと、宝珠はみるみるうちに赤くなっていく。
「こ、これはッ!?」
「まさかッ!?」
「こんなことってあり得るの?……」
しばらくして宝珠から視線を外し、俺を見るシスター。その目には驚きと困惑が広がっている。
「セドリック君のお母様、お父様。落ち着いて聞いてくださいね。セドリック君は炎適正です」
「なっ!?」
「嘘でしょう?」
そういって両親2人は俺を見る。だが俺は2人の顔を直視できなかった。
この期に及んで怖かったのだ。どんな反応をされるのかが。
すると、
「とんでもなく珍しいことが起こったもんだな〜」
と、父さん。
「そうねぇ〜。少し驚いちゃった」
と、拍子抜けな反応。顔を上げて見てみると、そこにはいつも通りの両親が。
俺は一瞬で込み上げてくるものがあったんだろう、気がついた時には視界がぼやけ、次の瞬間からは大粒の雫がボロボロとこぼれ落ちていた。
両親はオロオロと俺を慰めようとするが、俺の涙は止まらなかった。
初めて人から本気の愛を感じた瞬間だったからだ。
そんな感じで手を宝珠にかざしながら泣く俺と、それを必死でなんとかしようとする両親。
変な構図が出来上がっている。だが一つ忘れてはいけない事実がある。
それは、
「セドリック君の適性が炎だったことは歴史上稀に見る出来事です。おそらく彼が泣いている理由も、もしかしたら既になんとなく自分が他と違うと気づいていたのかもしれませんね。そして不安だった。それをあなたがたご両親がいつも通り受け止めてくれたといったところでしょうか? とても宜しいことです。ですがみなさんまだ気になることがあるので、宝珠を見てください」
一発で俺の心情を言い当てられたことも驚きだが、この人も変な目を向けてこない。
すごく安心した。だがそれよりもシスターの言ったことだ。
「どうしたんですか? 」
「適性診断の宝珠は適性を判断するとともに、魔力量も測れます。そして驚くべき事実が判明したのですが、既にセドリック君の魔力は並の大人を超えています。そして宝珠は未だ計測をやめようとはしません。つまりこれは……」
シスターが続きを話そうとしたその時、
バッリーンッ!!!
「う、嘘でしょ?」
「これは、セドの魔力で起きたのか?……」
「だとしたらものすごいわよ?」
皆が口々に俺の魔力について語っている。そしてシスターがようやく驚きから帰ってきた。
「これは驚きです。この水晶は1人の人間につき、宮廷魔導士が所有する魔力量ぐらいまでの量を計れます。それが割れたということは許容量を超えたということ。しかも、未だその体から放たれる魔力放出の度合いは衰えることを知らず、上昇し続けている」
なんかすごい展開になってきたぞ?
「これが証明することは既に、セドリック君の魔力量は水の王国最強格の宮廷魔導師たちを圧倒的に超えています。将来が楽しみどころではありませんよ」
シスターが楽しそうに説明してくれる。なんか案外社会とズレた個性持ってても受け入れてくれるもんなのかな?
だけど俺は今1番気になることをシスターに聞いた。
「司祭様、僕のこの適性を両親ともにあなたも受け入れてくれているのはすごくありがたいのですが、でもやはりこの国はあなたがた言ったように水の国。僕は変わり者として酷いことをされたりしませんか?」
なるべく7歳っぽく聞こえる話し方で喋った。するとシスターは、
「そうですねえ、確かに水魔法が盛んな国ではあるので、あなたの身近にいる人以外にはあまりウケは良くないかもしれません。でも絶対的に拒絶されるのであれば、今も私たちはあなたを疎み、宝珠などというものも開発されておりませんよ? だって適性を診断する必要もないのですから」
確かに、今までは気づかなかったけど、よく考えたら確実に拒絶されるならそもそもこんなことやってないよな?
じゃあ、
「じゃあ、今のところは気にする必要はないと?」
「はい、中には属性絶対主義と言われる少し行き過ぎた方たちもいますが、基本的には自分から属性のことを明かしまくるようなことをしなければ、大して生活に支障はありませんよ」
「よかったあ……」
俺は今、ようやく心の底から安心できた。
よかった。完全に受け入れられるわけではないのだろうけど、少なくとも今のところ俺を悪くいう人はそんなにいなさそうだ。
それに俺がこんなに心配していたのは他にも理由があった。
それは俺が異端と思われることで大好きな両親も酷い扱いを受けるのではと思ったのだ。
だけど今のところそれが頻繁に起こる心配はなさそうで安心した。
あとは町の人たちにも知らせないといけないけど、なんとなく大丈夫な気がした。
こうして俺の1番の関門を突破出来た。本当によかった。
これからもできれば優しい人ばかりに会いたいものだけど、難しそうなので、その時の対応はその時に考えよう。
とにかく今は無事に適性を受け入れてもらえたことを素直に喜ぼう。