2年後
本日2話目です。
俺、セドリックはこの世界の人間であって、この世界の人間ではない。
なんて格好付けて言ってみたけど、ようは転生してしまったようだということだ。
既にこの世界で2年を過ごしている。そして感じた違和感がある。
それは、魔法があり、剣を振るっている大人の姿があり、それらはまるで俺の知るあの憧れの世界だ。前世でも興味があって小説とか読んだことがある。
まさか自分がそのお話の主人公のような境遇になるとは思いもしなかったが、現実そうなっている。
俺は前世は普通の高校生だった。普通に学校に通い、普通に授業を受け、普通に帰る。
本当にごく普通の人間。ちなみに学年は三年生だった。もうすぐ受験だったんだけど、まあぶっちゃけ今となってはどうでもいい。
なんでって? 前世が下品だけど、クソがつくほど下らない人生だったからな。
父親は大企業の副社長。年収は軽く2000万くらいはいってたと思う。
語学大卒で英語もスペイン語も堪能で何かあるとすぐ社長に頼られていた。アメリカだけでなく、南米、中米、スペイン、英語圏全部に出張できるからな。
で、何が言いたいかっていうとようは父親は家族ほったらかし人間だったということだ。
何をするにしてもお金は出してくれた。お陰で俺は優秀になれたと思う。
学校の成績はいつもトップクラスでスポーツもやってて全国に行ったこともある。
でもいつも思ってた。つまんねーなーってな。
母親は母親で俺にとっては良くない親だった。父親がこんだけ稼いでて外に出る必要なんてないのに、やりたい仕事につけたって理由だけで仕事を続ける。
まあそれ自体はいい。でも帰ってくるのが20時以降が当たり前とかないわ。俺が小さい頃からそうだからな。
当然家政婦はいたからいいけど、二人とも親をやってくれているようで全く親じゃなかった。
みんなはよくお金持ちの家とかいいなあ〜って言ってたけど、俺は一度もその境遇に感謝したことはないな。だって育ててくれてたのほとんど家政婦さんだし。だからだろうか?
前世で何かしら理由があって死んだであろうこの境遇、そして転生したであろうこの境遇。
別に悪くないとか思っている。むしろ前世より大分マシだとさえ。だって……
「はーい、セドちゃん? ご飯ですよ〜」
「あい!」
自分を心から愛してくれる家族がいるのだから。この世界は暖かい。父親も溺愛っぷりを発揮してくれている。
街のみんなも俺が母さんに手を引かれながら歩いていると撫でてくれたり、笑顔で話しかけてくれたりする。
そんななんでもないことがすごく嬉しい。前世ではついぞ体験出来なかったことだからな。
そんな俺だが、最近少し悩みがある。言葉はみるみる覚えて行って、読み書きも出来るようになってきた。計算も自分から興味を持ってやろうとしてみると、母さんたちが教えてくれて、それも大抵が小学生レベルなのであくびしながらでもできるようなものだ。
だけどみんなは俺のことを神童だとか大袈裟なことを言ってよく褒めてくれる。少しむず痒いけど、嬉しいものだ。
だが悩みとはそれとは別のことだ。それはこの世界の人々は魔法を使う。そしてなぜか俺が住んでるこの街の人たちはみんな水魔法を使う。
「はーい、セドちゃん。水浴びしましょうね〜」
今もそう言って水魔法で水を出した母さんが俺に水を浴びせてきた。
そしてみんながしゃべっていることをこの間聴いた時なんだけど、みんな水魔法を使うときは体が涼しくなるような感覚があるらしい。
でも、俺はむしろ体がほてってくるのだ。まさか? とは思うけど、両親共に水属性。他属性で子供が生まれてくるなんてあり得ないと……思う。
とにかく、俺は魔法にも興味があってコッソリだけど、既に魔力制御的なものの練習をやってる。
なんとなく前世でそういう小説を読んだとき、体に感じるものがあるとかなんとか言ってたような気がして、やってみると案外これが間違ってなかったみたいでさ。
初めは難しかったけど、だんだん苦もなく魔力を感じられるようになってきた。
まあ、そんな感じで魔法に関して少し違和感はあるものの、それ以外は概ね想定以上に順調だ。良いことだ。
なので今は母さんとの遊びに集中する。
「ちゅめたい!」
「気持ちいでしょう〜? それ!」
「わぁっ!」
その後は二人で楽しく笑い合いながら、遊んで過ごした。
ちなみに父さんは街の警邏隊の仕事をしていて、昼間は忙しい。
なのでこの時間帯はいつも母さんに遊んでもらっている。
お昼に母さんと遊んで、十分に楽しんだ後は家に帰り、その後は軽く仮眠を取ることになったんだけど、その時にまた軽く魔法について考えていた。
まずわかっていることは、魔法を使う時には何かしらの感覚がある。
水魔法なら涼しいという感覚。そして俺はまだ魔力を扱えるだけで本格的な魔法は使えないのでどの属性の魔法なのかはわからない。だけど、取り敢えず暖かいという感覚はある。
そして次に、これは聞いたことがあるだけだけど、魔法には複数の属性が存在する。
俺が水じゃないんじゃないかと心配しているのはこれが理由だ。
こういう人伝の話を二歳からでも聞き取れるのはありがたいよな。
そして、最後に分かっているのが、他はどうか知らないけど、とにかく俺が住んでいるこの街の人たちはみんな水属性を使っている。
両親もだ。これがこの地域だけなのか、それとも他の地域でもそうなのかはまだ分からないけど、とにかくこの地域の人たちはみんな水属性ということ。
もし仮に俺が他の属性だったら相当浮くことになるだろうな。
とまあ、こんな感じだ。もっとたくさん言葉を発したり、聞けたり、読めたりするようになったら魔法書みたいなのはあるだろうからそれをみて覚えていきたい。そういう意気込みはあるのだが……
ただ、もし俺の属性が他の属性だったら他のみんなはそれでも俺を受け入れてくれるんだろうか?
気味悪がられたりしないだろうか? それだけが本当に心配なのだ。
正直怖い。またあの相手にされない人生に戻るのかもしれないとか考えるとどうしても胸が張り裂けそうになる。
願わくば、水属性であってほしいし、仮に他の属性でも俺を気味悪がったりしないでほしい。
そう切実に願いながら、俺は眠りにつくのだった。