本戦 2回戦
遅くなりました。ごめんなさい。
今日は本戦の2回戦だ。ここからは本当に強い奴しかいないだろうな。
ちなみにこれは余談だが、今俺は待機場所にいる。そしてこの場には特進の生徒しかいない。
つまり下位教室の生徒はみんな脱落したんだろう。下位教室の生徒でも本戦まで残った者の序列は上位に位置するだろうが、それでもそのさらに上位は特進が独占している状態になるだろう。
せっかくいいところまで行けたのに、現実は厳しいようだ。
とまあこの話はここら辺にしておいて、今は自分のことだ。まず今回の対戦相手だが、全く知らない奴が相手だ。
クラスで顔合わせをしたはしたが、あんなのでいきなり全員覚えるなんて無理だ。
なんせ特進は百人教室。俺は結構記憶力がいいみたいだが、さすがにこの人数の名前や顔をあの一瞬で覚えるなんてことは不可能だ。
というわけで俺は今回の相手のことを知らない。まあでもあんまし変わんないだろ。
だって自己紹介したところで切り札とか奥の手を教えてもらえるわけでもなし、属性だって水って分かってんだから俺が不利だなんていうのは子供でも分かる。
だから俺のやることは気を引き締めて臨むことだ。それ以上でも以下でもないだろう。
そんなふうに気持ちを固めて準備を整えていると、
「2回戦第一試合の始まりだ! 昨日1番目だと伝えられている生徒は速やかに準備して私と来るように」
係員さんが来たな。いよいよ始まりだ。
「よし、行けそうだな。相手は先に闘技場に出ている。さっさと行かなきゃならんから遅れずついてこい」
そう指示された生徒は頷いた後、係員さんについて行った。15分後、
「よし、第二試合だ! 出番の者は着いてこい!」
さっきの試合が終わったんだろう。係員が早速次の出番の人を呼びに来た。そして2番手は、
「僕だね。それじゃあセドリック、行ってくるよ」
「ああ、俺と戦うまで負けるなよ?」
俺はそう返事をした。アランは言われずとも、と言った感じで頷いてから会場に向かった。
そして当たり前のように2回戦も突破してきた。
その後もとんとん拍子に試合が進み、アニエスも出番が来たみたいだ。
残念ながらアニエスはここで敗退だったようだ。こればっかりは仕方がない。
アニエスは元々そんなに戦いが好きじゃないんだ。むしろあそこまで強くなれたんだから、才能がかなりあると思うし、十分過ぎるくらいだろう。俺のように単純に魔法を覚えてて楽しいからとか、アランのように騎士の家系だから剣術できて当たり前みたいな、行動目標があればアニエスはまだまだ上に行けた気がする。
それほどまでにアニエスは覚えが早い。実際、嫌々戦いの術を覚えさせられて学園のトップのクラスに入学してる時点でそれは証明されているも同然だろう。
とまあ、アニエスに関して色々とお節介なことを考えている間に、前試合の生徒が帰ってきた。
次は俺か……
「次、セドリック! 準備はいいな!」
「はい」
こうして出番が来たので俺も会場に出る。すると今回は俺の方が登場が先だったようだ。
俺が入場して数分後に対戦相手が入ってきた。
「皆さん、お待たせしました! 本日の最も気になるであろう生徒の登場です。この国に生まれながらなぜか炎魔法に目覚めた不思議な少年、そしてその強さ! 魔法はもちろん、剣術もお手のもの! 果たして今回もその強さを証明できるか大変見ものです!」
てな感じで俺の紹介が行われた。盛り上がってる人もいれば、やっぱり野次ってる人もいるな。
だが無視していく。今俺が注目すべきは目の前の相手だけだからだ。
そして俺と同じような感じで身振り手振りを使いながら解説者が相手の紹介をしていく。
名前はベランジェ・オードラン。そして解説者の話ぶりを聞くに、結構手強そうな相手だ。彼の家は叩き上げの騎士家系でその当主の爵位は侯爵位。
正真正銘の大貴族のお家の出だ。そんなわけだからまず魔法も使うんだろうが、メインは剣らしい。そして手練れだろう。気をつけた方が良さそうだな。俺は剣術も使えるが、メイン戦法は魔法だ。
回り込まれたり、肉薄されるのは本能的に好きじゃない。なのでやるなら初っ端から、
(全力で魔法で弾幕張って近づけないようにしないとな……)
「それでは、用意、初め!」
試合開始のドラが鳴らされた。俺は迷わず火炎放射の魔法を前面に左から右に流れるようにして放った。
溶けはしないが、炎が通り過ぎるごとに確実に赤熱していく地面とそれを成す炎魔法に危機感を覚えたのか、対戦相手は後ろに飛び退いた。
そしてそんな致命的な隙を見逃す俺ではない。相手が1番嫌がるであろう、遠距離戦に持っていき、一方的に主導権を奪っていく。
使うのは前世でよく漫画などにも出てきた、光線ぶっ放した後で爆発させるあの攻撃。
「熱光線!」
「ッ!?」
肉眼で視認するのは不可能なほどの速さで目の前を横一直線に通り過ぎて行った熱線を見て、ベランジェは驚愕の表情を浮かべる。
だけどいいのかな? そこに留まっていて、
俺がそう心配した途端、地面が爆ぜた。まあ、よくアニメなどであるあるな、光線ぶっ放してその数秒後に爆発が連鎖して起こるのをイメージしたからできた魔法なんだけど。
これ結構反則かもな……。
そんなことを考えていると、
「貴様、さっきから使っている魔法の数々、どこで覚えた?」
「熱光線や火炎放射のことですか?」
僕の丁寧な返しに彼は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに気を取り直して頷いてきた。
無口なんだな彼は。
「そうですね、自分なりにこうしてみたらどうだろう? って言うふうに想像を膨らませて作ったと言う感じですかね」
「天才、と言うやつか……」
「何か仰いましたか?」
俺が聞くと、いやなんでもと言う感じで首を横に振られた。ならこれ以上問答を続ける必要はないか。
じゃあ早速、
「火焔鞭!」
「!? クッ! ならば!」
ベランジェは炎の鞭のヤバさに気付いたのか、長物に対しての対処として定石の接近戦への移行を強行しようとしてきた。だけど鞭の凄さを彼はあまり分かっていないようだ。
「迫ってきても対処法はありますよ!」
ベランジェは俺からみて左側に走ってきたので、俺はまず少しだけ左側に鞭を振るう。
そうすることで鞭は遠心力に沿うように綺麗な半円形を描きながらベランジェに迫っていく。
でもベランジェは左側に走りながらも俺の方に距離を詰めているので、このままでは鞭の1番スピードと威力が乗る先端が空振りすることになる。
だけどそれは俺がこのまま振り抜いたらの話だ。俺は自分の持ち手側がベランジェよりもさらに左側に来た時に、一気に右側に振り直した。
そうすることで鞭が一瞬で俺の方に先端だけ戻ってくる。このままだと逆に俺だけがスピードの乗った鞭を喰らうことになる。
それを相手に向けるため俺は右側に向けて一瞬手首にスナップをかけた。そうすることでまた鞭に右側への強い引っ張りの力が働き先端は俺からベランジェへと標的を変えながら一直線に進んでいく。
バシンッ!
と鞭が音速で風切り音を立てながら物体にぶつかる衝撃が手元にきた。
そして目の前には炎の鞭に対してベランジェが剣を切り込み、その剣に鞭が巻きついていると言う光景が広がっていた。
つまり、側からみれば互いにこう着状態に見えるというわけだ。だけど、それは少し違う。
正確には自分に有利な間合いで動ける俺の方が圧倒的に押している。実戦なら完全に生殺与奪権を奪っていると言える。
それはなぜか、
「ふんッ!」
俺は炎の鞭を一気に自分側に引いた。すると、
バキンッ!
「ッ!?」
ベランジェの剣が俺の魔法の熱量に耐えられず、劣化しているところを俺が一気に絡めとるように引いたので遂に限界を迎え、真っ二つに折れてしまった。
そして俺は再び掌を相手に向ける。
ここでようやくベランジェはどう足掻いても無理だと悟ったようで、
「俺の完敗だ。降参を宣言する」
俺は頷くことで了承の意を示す。すると、
「なんということでしょう! 武門の家系最強候補の跡取りがまさかの武器まで破壊される完全敗北! 私もセドリック君は強いと思っていましたが、まさかここまでとは思いもよらぬことでした! それでは降参宣言が出たということでこの試合決着となります! 皆さん両者の健闘に拍手を!」
パラパラと気の抜けた拍手が飛び交っていた。恐らくこの試合は魔法使いに対して間合いさえ詰められれば絶対有利になるベランジェが勝つと思われていたのだろう。
だが結果はご覧の通り、戦いを有利に進めるどころか俺が圧倒してしまった状況。
なので信じられないんだろうな。でも一つ彼の尊厳を守るための発言をするとするならば、彼は一度も魔法を使っていなかった。
恐らく剣で勝てると思っていたんだろう。そして俺がそこそこやると分かって、魔法も使おうか迷っていたんじゃないかな? 実際に戦いの中で彼の魔力が少しだけ揺らいだ瞬間があった。あれは魔力を動かす前兆だ。
つまり"やろうとはしていた"のだろう。だけど、その前に俺の手数に圧倒されてしまったと言ったところか。
まあ、彼のことは俺が気にすることじゃないので放っておくとする。
取り敢えず試合は終わったので控え室に一旦戻るとする。
はあ、今日も疲れたな〜。
本戦 第二回戦 セドリックVSベランジェ・オードラン
決着 セドリックの勝利 試合時間 10分35秒
決着要因 ベランジェの武器破損により、降参決着