序列決定戦 本戦開幕
本日も宜しくお願いします
序列決定戦の予選が行われた翌日、ついに序列の頂点を決める本戦が始まった。
気を引き締めないとな。何故なら既に何名かは特進の生徒が下位の教室の生徒に敗れている。
この結果自体は成績に反映されずとも、教室は上なのに、序列は下の教室より下位ですなんて事態になっている。
今後彼らは特進教室の生徒の名にふさわしい順位に上り詰めるために相当努力しないといけないだろう。
ただ、
(それをやろうって気持ちに簡単になれるのならいいけどね。学園のトップとしてのプライドに関してはもう既にズタボロだろう。学園側も競争心を掻き立てるのが目的なんだろうが、荒療治が過ぎるな。こういうやり方は打たれ強い性格の者には有効だろうけど、そうじゃない奴にとっては耐えがたい屈辱だろうな……)
なんせ、学園の特進教室に入れるくらいに努力したのは間違いないだろうから。
それをこんなふうに理不尽にその自信を打ち砕くようなやり方、あまり好きになれないな。
努力してないのにプライドだけ無駄に高いのは確かにダメだけど、彼らのように必死に努力したが故の自信やプライドは持っても別にいいと思う。
でもまあ、
「俺が気にすることじゃないか」
「ん? 何か言った?」
「いや、なんでも」
今はアニエスと一緒に控え場所に向かっている。アランは今回かなり序盤での出番なので、早めに控え場所に向かって気持ちを落ち着かせたりと色々とやりたいことがあると言って俺たちよりも先に出て行った。
「今日はお互い頑張ろうな」
「あったりまえよ! ここまで来たんならやってやるわよ! なんとしてもセドに追いついてやるんだから!」
「いやいや、まだ序列は決定してないからね?」
「それはわかってるわよ? でも成績での序列に関してはあなたが頂点なのには変わりはないでしょう? なら間違いではないんじゃない?」
「まあ、そうか」
確かにそういうふうに考えたら現時点で俺は1番ということになるのか。
頑張らないとな!
二人でおしゃべりしながら歩いていると、すぐに会場に着いた。
「やっぱり人は少なくなってるな。うんうん、よきかなよきかな」
「ほんと人混みが嫌いなのね。それと似合わないからそんな変な言葉使わないで」
「はい……」
柄じゃないのはわかってたけど、冗談として受け取ってくれたっていいじゃないか。
たまに辛辣なんだよな〜アニエスって。
まあ、向こうも本気でこんなきついこと言ってるわけじゃないってわかってるからいいんだけどね。
とまあ、そんなしょうもないやり取りをしていると係員さんが順番に生徒を闘技場に送り届け始める。
そして怒号のような歓声と共に試合はズンズンと早いペースで進んでいく。
ちなみにアランは当たり前のように本戦一回戦突破だ。
圧勝も圧勝。そりゃそうだ、そもそもアランは入学した時点で学年3位だ。成績には学業評価も含まれているとはいえ、別にそれはアランの実力が低いというのとイコールではない。
何せ、アランは入学試験での実技については満点にプラスで点が入っている。
弱いわけがないし、現時点でアランより下の奴らがあいつに勝てるわけもない。
結果、アランが一方的に対戦相手をボコボコにして終わった。
その後も次から次へと生徒が闘技場に案内されて行って、ついにはアニエスの出番となった。
十数分後、
闘技場で歓声が起こり、アニエスが勝ったと放送が入った。俺が一安心していると、
「次、セドリック、いるか?」
「はい!」
「よし、出番だ。準備しろ」
係員の人が待合室に入ってそう宣言し、その後に俺はそそくさと準備を始める。
終わった後に係員さんに声をかける。
「準備できました」
「よし、では案内する。思う存分戦え」
「はい」
何処か激励するような言葉に嬉しさを感じながら俺は会場の入り口へと向かっていく。
そこでは既に相手が待ち受けていた。
「皆さん、お待たせいたしました! 本日の目玉、セドリック出場の試合です! 彼は成績でも既に首席の座についています。いい戦いを見せてくれることでしょう!」
実況さんは興奮しながら解説してくれているけど、観客の何人かからはブーイングがチラホラと聞こえて来る。
しかも平民衣装でだ。つまり彼らは他の属性は侮蔑の対象という考え方を本気で信じているタイプの考えなしな平民たちだ。
そもそも平民は貴族の属性至上主義に触れる機会が少ないだろうから、ここまで頑なに偏見を持つことは少ない。どうやってそんな歪んだ考えが身についたんだ?
でもたまにいるみたいだし珍しいことではないのかな? まあ、どうでもいいやそんな奴らのこと。
人を外見や目立つ特徴でしか判断できない奴らの戯言は放っておこうって決めたばかりだしな。
そんな感じでさっさと外野から注意を外して戦いに集中しようと決意したまさにその瞬間に、開始の合図がなされた。
俺は早速、相手の観察から始める。立ち居振る舞いで大体戦士よりか魔法使いよりかは分かるもんだしな。
そうして観察した結果、魔法使い寄りの戦闘スタイルらしい。剣は一応携えているようだけど、明らかに立ち姿や所作が剣術素人だ。
だが逆に魔法使いらしく、距離をとってかつ、不意打ちに備えるための対応がしっかりとなされている。
具体的には感知魔法で警戒している。どうやっているのかというと、自分の魔力を常に一定範囲に展開して、相手がそこに踏み込んだ瞬間に踏み込んだ相手の放つ魔力を感知して避けたり反撃したりできるようにしている。
恐ろしいほどの徹底ぶりだ。
ってよく見てみると、あいつついこの間、俺たちに絡んできた奴の一人じゃん。
ふーん、なるほど。面倒なタイプだな。無能で高飛車な奴は放っておけばいいけど、優秀で傲慢だったり、相手を見下して危害を加えようとする奴はマジでタチが悪い。
1番近寄られたくないタイプだ。
最悪だな〜と思って見ていると、やっぱり相手は積年の恨みを晴らさん! とでも言いたげな顔で俺を睨んでいる。
(まあ、やるしかないよなあ……)
俺は取り敢えず、様子見の意味も込め、相手の苦手分野である剣術で攻め立てることにした。
やはり近接戦闘は大の苦手なようで、すぐに対処しようと水の輪っかの魔法を放ってきた。
これは……拘束の魔法か。
「なかなかに優しい魔法を使ってくれますね! ほら行きますよ!」
俺がもう目と鼻の先でもう一度魔法を放つ余裕はないと判断したのか、後ろに飛び退き距離を置いてきた。
でも
(それは悪手だと思うなぁ……)
「火槍! 魔法はあなたの専売特許じゃありませんよ」
「くっ! ふざけやがって!」
彼は水のドームで魔法を塞ぐ姿勢に入った。まあ、放ったのは魔法を学ぶ際、初歩の初歩として習得する炎の槍なので、普通に防がれると思う。
だけど俺は焦ったりしない。それが本命なら俺はその一撃であんたを倒してるさ。
俺は前世でよくあった漫画のイメージで、剣に魔法を纏わせるやつを小さい頃から練習していたんだ。
これを今発動してとどめを刺すこととする。ボォッ! と燃え上がる炎が俺の手から剣にまとわりつく。
その光景を見て、会場の誰もが息を呑んだ気配を感じ取った。
「これで終わりだ! 俺を舐めたこと、墓場まで後悔するんだな!」
多分、こいつらのことを極端に嫌な奴と思ってしまうのは村にいた人々がみんな優しくて思いやりのある人ばかりだったからだろう。
だからこそこういう理不尽なことを平気でする人間の感覚が理解できないのだ。
俺はそういうふうに思ってる。なのでそのモヤモヤした気持ち悪い感情を晴らす意味でも彼のことを思いっきり打ちのめした。まあ、大丈夫だろう、死ななければ回復する魔導具があるんだしここは思いっきりいかせてもらおう。
「喰らいやがれ! 陽炎斬!」
ドゴンッ!
峰打ちで相手の腹を抉り叩いた音が鳴り響いた。これは骨が折れただろうな。
でもまあ、特権階級の人間が人の痛みや苦労というものを知るいい機会にはなっただろう。
上から目線な態度に見えるかもしれないが、それは気にしない。こういうやつに言葉で何を言ったところで無駄だからだ。体で覚えさせた方が早い。
そして攻撃が終わった頃、立っているのは俺1人。相手の貴族の子息はピクリとも動かない。
そして解説者が、
「勝者、セドリックーーーッ!」
まばらな拍手が起こった。
よし、取り敢えず一回戦は突破だ。なかなかいい感じだったんじゃないだろうか?
まあなんにせよ早く休みたいので控え室に向かう。
この後、残りの人たちの一回戦が行われ、今日のプログラムは終了した。
いよいよ、明日から二回戦だ。おそらくここからはアランやアニエスたちとも当たることがあるだろう。
だが手は抜けない。友人だからこそ、全力で行く。礼儀を尽くすために。
そう決意し、俺は控室で休んだ後、アランたちが観戦している舞台の観戦席へ向かったのだった。