予選後の外野の反応
学年対抗序列決定戦の予選が終了し、来場者たちがゾロゾロと一旦家に帰って明日の本戦観戦に備えようとしている時、まだ会場に残っている人物たちがいた。
主にそれは貴族や軍部などのお国の重鎮さんたちである。
そうやって居残り組の各々が自分達の目で見た試合の評価を下していく。
そのうちの一人であるアングラード公爵は一人思案に耽っていた。
(ふむ、先ほどの試合、一人だけ別格の者がいたな。それ自体は我が国の戦力になり得るから喜ばしいことではあるのだが……その者がまさか炎適性とはな。なんとも嘆かわしい運命だ。まずこの国の面子について考えても奴を優遇するというのは悪手だな。そんなことをすれば貴族と王家で分裂する。正直私はそんなくだらんことどうでもいいのだが、私のすべき事は国を安定させる事。いち哀れな他属性持ちを助けてやることではない。さて、どうしたものか……)
アングラード公爵は属性至上主義についてはあまり執着を持たないタイプの貴族だ。ベルリオーズ騎士爵家当主と仲がいいことからも分かるが、属性によって何かが決まると言う考えは浅はかと考える見解の持ち主なのだ。
そんなことにこだわっている暇があるのなら魔法や勉強を少しでもできるようになったらどうだ? と考えているくらいだ。
何故なら属性至上主義を唱えている貴族は総じて馬鹿ばかりだからだ。
ちなみに現国王も例外ではない。彼は無能ではないが、貴族たちにそそのかされて属性至上主義になってしまった哀れな者の一人だ。
そして公爵がベルリオーズ騎士爵と仲がいいのを聞きつけて、早速暗殺者を送り込んできたほどだ。
他にも色々と搦手を使ってきたが、全て潰してしまった。それが原因で公爵には知恵では勝てないと悟ったのか、嫌がらせはぴたりと病んだ。
あと、公爵が玉座に興味がないのもこれ以上余計な真似をしてこない一つの理由だろう。
そんなこんなで、彼は宰相としてこれからあの優秀な炎魔法使いをどう扱っていくべきか考えないといけない。
(はあ、私が一体何をしたと言うのだ。こんなバチのような運命を喰らうべきなのは兄上の方であろうに……今から胃が痛くなりそうだ)
彼は今後の波乱を想像し、ひとり頭を抱えるのだった。
アングラード公爵が一人思い悩んでいるのと同じタイミングで、他にも頭を抱えている者がいた。
それは属性至上主義の貴族である。爵位は伯爵とかなり高め。そんな彼がひとり不満だと言いたげな顔をして闘技場を眺めていた。
(全く、頂点級の実力を持つ者が炎魔法使いとはどう言うことだ! しかもやつは調べによると圧倒的成績で主席に座していると言うではないか! 全くもって気に入らん!)
と初対面、というより初見で既にセドリックのことを敵視している。
だが、どこかで彼は思い付いた。
(ふむ、邪魔ならば消せばいいだけか。確か学園は四年で卒業だったな。その後は自由に道を選んで進むとか。ならばその頃が1番やりやすい。学園にいるうちは生徒は陛下のもの。つまり手を出せば陛下に槍を向けることと同義。そんな真似は流石にできん。故に学園を卒業し、後ろ盾がなくなったところを何かしらの搦手で陥れて破滅させてやる! ははは!)
こういうところがアングラード公爵から暇人のバカで無能とボロカスに見下される所以である。
一方、その場に居合わせた軍部の人間はと言うと、
(欲しい! あの力、軍部に引き入れることができれば我が軍の戦力は大幅に強化される! しかし問題はあの属性よのぉ。どうしたものか……我が家は侯爵家。大抵の貴族は言うことを聞かせられる。だが、数人だけそうはいかない人物がいる。今日来場なさっていたアングラード公爵は関係ないとして、残る公爵数名と、陛下が属性至上主義なのだ。かくいう私も絶対的拒絶とまではいかないが、あまり他属性にいい印象は持ち合わせていない。故に……)
断念せざるをえないか……彼はそう考えた。だが彼は知らない。この考えがのちにとてつもなく悪辣な陰謀に利用されるとは……。
こうして、それぞれの思惑が交錯する序列決定戦の予選が終了した。セドリックやアラン、アニエスたちはそれぞれ寮に戻り、明日に備えて早く休むことにした。
「いや〜、それにしても今日は疲れたね〜」
いきなりアランがそんな仕事終わりのおっさんみたいなことを言い出した。
「そうか? 大したことなかったと思うけど?」
「そりゃ君の場合は主力武器は魔法だろ? でも僕は剣なんだ。もちろん魔法も使えるけど、やっぱり戦いとなると、こっちの方がしっくりくる。それに、こんな人数と戦うのなんて初めてで正直戦い疲れたんだよね〜」
「確かに俺は剣も使うが魔法が主力か。やっぱそれって大分差があるのか?」
「大いにね」
アランは大仰に頷いた。アランの話によると、まず第一に魔法使いが消耗するのはあくまで魔力で、剣士が消耗するのは直接的な体力。
精神力を消耗するのはお互い戦っているので当然として、やっぱり直接的に足腰や腕に疲労が溜まる剣士は連戦になると相当辛いらしい。
「僕もちょくちょく魔法は使うけど、魔法は威力が強い代わりに隙になる。だからあまり多用はしたくないんだ。僕の場合、セドリックと違って魔法を使う際の想像する過程も時間がかかるしね」
なるほどなあ、この世界の人々は全員が当たり前のように魔法を使えるが、それにも差はちゃんと存在するということか。例えば魔力量がそこまで多くないので、多少強い魔法をいくつか連発するとすぐに戦闘能力がなくなってしまうとか、アランみたいに魔法を連想する過程が苦手な人とか。色々いるみたいだ。
「そっか、アニエスの方はどう?」
「あたしも超疲れた〜。もうあんなぶっ通しの戦いなんてごめんよ」
「ははは、流石にこんな大量の敵と戦う機会なんて滅多にないだろうな」
「だといいけどね〜。世の中なんでもこうしたいとか、こうがいいって望んだことの反対のことが起こる方が多いから」
「まあ、確かに」
アニエスはもうこんな戦い懲り懲りって顔で愚痴をこぼしまくっている。
かくいう俺も正直、これはもうあんまりやりたくない。自分の使える魔法をあまり他人に見せたくないからな。
二人とは少し違う意味でやりたくないわけだけど、まあ結論は3人同じでもう嫌だってことだな。
「取り敢えずさっさと寮に戻って休もうぜ? 俺は人が多すぎて、別の意味で力尽きそうだ」
「ああ、そういえばセドリックは人混みが嫌いだったね」
「そゆこと〜」
「あたしも早く寝たいわ〜。ご飯食べたら今日は早めに寝ようっと」
という感じで俺たち三人は足速に寮に戻っていくのだった。