結果発表!
遅くなりました
翌朝、俺は学園が始まる時間帯の30分ほど前には起きて、寮で朝食を取って登校する用意ができていた。
確か今日は結果発表の日だったと記憶していたからだ。その試験結果を踏まえてクラス編成がなされるので、しっかりと確認してからじゃないと自分のクラスにたどり着くことすらできない。
そんなことを頭の中で確認しながら初日に必要な持ち物の最終確認をしていると、俺の部屋をノックする音が聞こえた。
「はーい、どうぞ~」
「やあ、セドリック」
「おお、アランか。おはようさん」
「ああ、おはよう」
「おはよう、セド」
「お、アニエスもおはよう。じゃあ、三人そろったし早速行くか?」
「そうだね、どうやら毎年、結果発表の日は校門入ってすぐの広場が超満員になるんだって」
俺はその話を聞いて嫌な予感がした。
「それって、ロクに掲示板も見れないくらい人が集まるってことか?」
「ご名答。という訳で早くいくよ!」
「あ、おい! ちょ、待てよ!」
すたこらさっさと歩いて行ってしまうアランに、俺が苦笑いしていると、
「ほんと、アランってキビキビした性格してるわよね~、さすが軍人に育てられた息子って感じ。セドとは大違いね」
アニエスがくすくすと笑いながら俺に言ってくる。なんだそれ?
「悪かったな、ノロマで」
「ん? ああ、言い方が悪かったわね。別に責めてるんじゃないわよ? あなたは単純に自分の歩調で動くだけでしょ? でも私は嫌いじゃないわよ?」
「え?」
それって、どういう意味?
「さ、行きましょう! いい結果が出るといいわね!」
「あ、お前まで急かすのかよ! 全く……」
俺がぶつぶつ言いながら着いていくと、アニエスはどんどんと先へ行ってしまう。はぁ、まあ、要は俺はマイペースって言われたんだろうが、あの二人も大概、己が道を行くタイプだと思うぞ?
なので場合によっちゃ俺よりもマイペースだぞ。まあ、別に貶されてるわけじゃないしいいけどさ。
そんな風に思いながら俺は彼らの後をついていくのだった。
一方アニエスはと言えば、
(バカバカ私! 勢いに任せていきなり何言ってるの!)
勢いあまって告白しかけていた自分にものすごく動揺していた。まあ、気持ちがバレて困るわけでもないけど、さすがにあそこで、はないわ~。
それにどうせなら男の子に告白してもらいたいかな? 私は。図々しいかもしれないけど、何となくそういうのに憧れるのよね。
自分の回りが男の人から告白された人ばかりだし。自分もそうなりたいなーなんて。
さてさて、とりあえず今は結果発表のことね。気持ちを切り替えなきゃ。そう思うとさっきまでの慌てようがうそのように気持ちが落ち着いてきた。
俺たちは三人そろって広場に着いた。30分も早めに寮を出たのにもうすでに結構な量の人だかりだ。俺は前世の時もそうだったけど、何人かいた仲のいい友達とかに、遊びに誘われてテーマパークとかに行ったことあるけど、正直ああいう場所は嫌いだった。
というより正確には人が多い場所が嫌いって感じだな。いちいち人を避けて歩かないといけないのもストレスだし、逆に場の騒がしさで注意力散漫になって、自分にぶつかってくる人にもイライラしたっけ。そしてそういう日に限って家にたどり着くと、必ず頭痛がしていた。
もう最悪の一言だ。だからテーマパークに関しても、順番が来て乗れればその瞬間は楽しいけど、終わればまたあの地獄に逆戻りだ。
だから昔からそういう性質があったから、人が多い場所は好かん。今も実は結構なストレスだったりする。
「人が多いな……」
「そうだね、みんな結果が気になってしょうがないのさ」
「でもこれ多すぎるわよね? これでまだ全員じゃないのよね?」
「おそらく?」
「マジで帰りてえ……結果とか寮にいんだから蝋封して扉の投函箱に入れてくれればいいのに」
「ははは、さすがにこの人数の封筒を届けていたら、ただでさえ翌日の締め切りまでに頑張って採点している教授陣が過労で倒れるよ。この学園に一学年何人入学すると思ってるのさ」
「何人なの?」
「1200人。つまりこの学園は4年制だから4800人いることになる。まあ、採点は入学者の1200人だけだけど、それでもその人数分の採点を、翌日までに終わらせないといけない教員は結構地獄だと思うよ?」
確かに、さすがにここまで教えてもらうと、俺もこれ以上図々しく文句は言えない。なんせ俺らは昨晩、寝る時間があったんだから。
でもおそらく教員は寝てないだろう。やっぱり教職者ってのはどの世界でも共通で徹夜ありきなのかな? そう考えると、俺のこの人だかりがしんどい程度なんか可愛く思えてきたな。
とりあえず結果見に行くか。
そう思って一歩踏み出すと周りが騒がしいことに気がつく。何事かと思って掲示板に近づくと、俺の受験番号が見えた。主席だ。
めちゃくちゃ嬉しい。頑張ったかいがあったってもんだ。だが今気になるのは俺の点数よりも、
「お、おい……なんだよ首席の、あのあり得ない点数……歴代最高だってよ」
「すご~い。剣術も、魔法も満点どころか、学園からの追加評価として魔法は50点分追加、剣術は47点分追加ですって~。カッコいい」
「でもよこの首席、試験で炎魔法使ってたらしいぜ?」
とそんな声がたくさん聞こえてきて、そして最後の一人がしゃべり終えた瞬間、場の空気が変わった。反応は主にまちまちだ。ここは水魔法使いの国だぞ! 炎魔法使いは出ていけ! という感じの人や、で? だから何? という人。
へぇ~珍しいね! ところでその人はどんな魔法を使ってたの? という人など多種多様だった。
ただやはり、で? とかそれより~って話を進めている人たちは基本的に服装が平民だった。明らかに権力層じゃない。
逆に貴族の見た目してるなって人たちは、俺の受験番号見て憎々しげな顔をしている。勿論そんなことどうでもいいって感じの貴族の子供たちもいるけどね。
でもそれはあくまでも少数だ。基本的に水魔法使いが圧倒的な数を誇るこの国において、他国から事情あって入国しているだけの者ならまだしも、生まれも、育ちもこの国なのに炎魔法使いというのは明らかに異常ということなんだろう。
はぁ、朝から気分落ちるなあ~。やっぱり部屋に持ってきてもらえれば……いや、さっき無理って結論付けたよな。
とにかく広場の受付の人に受験番号見せて、自分が学園に到着しましたよと言うのを見せないといけない。さらにそこで主席生には特別なバッジのようなものが渡されるらしい。試験終了後に試験監督の先生が言っていたしな。
でもそれをするとあの殺伐とした空気の中、俺が主席で~す! って宣言するようなもんだろ?
いくら先日、自分は自分だから気にする必要はないって心に決めたからと言って、即行でこうやって思いっきり差別している人たちの現場を見てしまうと、げんなりするものがある。
でもまあ、嘆いていたって始まらない。いずれは宣告しないと教室に向けないんだ。仕方ない。
「あの、すみません。1089番のセドリックです」
「ああ、貴方が……こちらにお名前をいただけますか? そしてこれが主席勲章です」
「あ、ありがとうございます」
俺は名前を書いた後はさっさと二人の元へと戻った。なんせ、受付の教授の人にいい感情を持たれていないことは明らかだったから。
でも学園の指導方針上、表沙汰にして俺のことを差別できないから、黙って仕事をしているって感じかな。
もしかしたら違うことを考えていて、たまたましかめっ面してただけかもしれないけど。
まあ、いいや。多分もうあの教授と会うこともないだろうし。
一歩ずつだ。一歩ずつ気にしないで生きていく癖をつけよう。こればっかりは学園の規則がどれだけ守られてるかで決まるわけで、今の俺には貴族の子息たちにどう思われていようとどうしようもできない。
「おっす。二人はもう手続きすんだんだな」
「ああ、僕は3位だったよ。君の二つ下の順位だ」
「私は7位。少しこの時点で二人には差をつけられちゃったわね」
「まあまあ、それはどうしようもない。アニエスは武芸に関して、あまりやってこなかったんだから仕方ないよ」
「うん……」
ああ、結構気にしてるなこれは。多分これって俺たちとの差がどうのっていうよりは俺やアランは完全上位だけど、自分は普通の上位に収まった。
だから多分努力不足だったかな? とかそういったこと考えてそう。あくまで俺の想像だけど。
「じゃあ、入学関連の行事も一段落ついたし。おいしい物でも食べに行く?」
「いいね!」
「そ、そうね」
「じゃあ、今日は俺のおごりな? 二人に助言貰って、少しだけ気持ちが軽くなったから」
「「いいの!?」」
「あ、ああ……」
アニエスよ、先ほどの落ち込みぶりはいずこへ?……まあ、元気になったのならそれでいいか。話はアニエスが話す気になった時、好きなだけ聞いてやろう。
今は、どっちかって言うとそっとしておいてほしいだろうから。
こうして俺たちは試験を終え、三人そろって学内のたくさんある食堂のうちの一つに入った。
10話に関して、少し修正しました。もしよろしければご覧いただけると嬉しいです