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入学試験

 俺と、アニエス、そして先程友人となったアラン。3人で一緒に学園の試験会場に向かった。

 途中でさっきの嫌な貴族の息子たちも見かけたが、どうでもいいのでスルーして会場に向かった。

 それよりも気になることが、


「あの、アラン様……」

「セドリック、様付けなんてやめてくれ。君は友人なんだ。それに基本的に学園内ではお家の権力は効果を発揮しない」

「そ、そう? ならお言葉に甘えて。アラン、俺がそのベルリーオーズ騎士様を助けたことは、ご本人から聞いたの?」

「君は本当にそんな言葉遣いをどこで覚えたんだい? まあ、いいか。そうだね、父上から話は聞いたよ。ただ、あくまでこの話は特に親しいものの間でしかしてはダメと言われている」

「そうなの? どうして?」

「わからない。理由までは教えてくれなかった。とにかく、今は僕らだけしかいないからこの話題を話しているけど、今後もし他の人がいる場合はあまりこの話題を出さないようにするよ」

「う、うん。君がそうしたいって言うならそうすれば良いけど」


 よく分からない話だったけど、俺としても実力云々の話はともかく、炎適正であることはあまり言いふらさないでほしい。

 なので願ったり叶ったりだ。



 そんな感じで、3人でゆっくりと話しながら歩いていると、会場に着いた。


 会場はとにかく広かった。まずは屋内のホールのような場所で筆記試験だ。

 時間は一科目50分。国史、世界史、基礎魔法知識、算術。これらの教科を一つずつ行っていく。



「皆さん、おはよう。私が今回の試験監督者だ。皆、不正のないよう正々堂々と試験に挑むように。それでは、1教科目の科目を準備して……用意できましたね? それでは初め!」


 そこから長い長い筆記試験の時間が始まった。と言っても俺の場合、全部わかるので、とにかく綺麗に書くこと、見落としや書き間違い、解き間違いがないかだけ確認してすぐ終わった。




 筆記が終わった後は闘技場のような場所に移動して、実技の剣術・魔法の二つの項目で試験だ。魔法は的に向かっておもいっきり自分の撃てる最大魔法を撃つこと。

 剣術は担当試験官複数名と模擬戦形式で、認められれば及第点。唸らせることが出来れば高得点ということらしい。



「じゃあまずは剣術からいきますよ〜。みなさんしっかりお話を聞いてくださいね」

「それじゃあ、俺が相手を務める。試験で使う剣は当然だが木剣だ。滅多なことがなけりゃしにはしないが、もし当たりどころが悪かったら死んじまうかも知れねえ。だから試験以外では絶対に振り回したらいけねえ。注意しろよ? それじゃあ、1番初めの受験番号の奴前へ」


 そうして試験が始まり、たくさんの生徒が他にもいた複数人の試験監督者と模擬戦をしていく。

 大半がダメ出しばかりされていたが、中には優秀なものもいたみたいで、


「おう、お前良い感じだな! 将来が楽しみだ。だがまだまだ打ち込みが甘い! 技術、肉体、戦略は大したもんだが、実際に相手に打ち込む力の使い方がそれらの能力に追いついてねえ。その辺の対策をしっかりするんだな」

「はい!」

「よし、もう下がって良いぞ。次、お前だな」


 ようやく俺が呼ばれた。いよいよだ。頑張るぞ!



 そして、数分後、


「ははは! こりゃ凄え! 10歳でこの腕とありゃ、さらに5年後、10年後がとても楽しみだな! お前良い師匠を持ったんだな」

「ありがとうございます」


 どうやら、剣術は高評価で終わることができたようだ。流石に試験官に勝つことはできなかったけど、それなりの戦いができたと思う。

 その後、アランやアニエスも剣術試験が行われた。

 アニエスはあんまり剣術が得意ではないので元からそんなにやる気が無かったようで、試験管もアニエスは剣術に向いていないことをすぐに見抜いていた。


「お疲れ様、2人とも」

「うん、セドリックもね」

「なんか今回の試験はつまらなかったわね。剣術とか元から全然やってないし」

「そうだな。アニエスは昔から剣とかあんま好きじゃ無かったもんな」

「うん、だけど試験で剣術の項目があるって聞いてたからそれなりに振れるようには練習したけど、まあお察しってやつでしょ」

「まあ、それはしょうがないよ。人には向き不向きがあるからね」


 ちなみにアランはめちゃくちゃ良かった。試験官の態度を見ても好感触だったのが伝わってきた。


 その後は3人で他の受験生の試験が終わるまで待って、すぐに今度は魔術の試験に移った。

 会場はさっきと同じ。でも試験形態が違う。いくつもの的が用意されていて、それに自分の魔法を撃ち込んでいく。

 ちなみに試験回数は3回。

 3回全て当てられれば上出来、2回ならなかなかに良い、1回ならまあ、及第点。

 命中弾ゼロはしっかり基礎から出直してこい、と言う評価だ。


 さてさて、今まさに1人目の生徒が的の前に立っているが、果たして結果はどうなるのか。

 故郷を出る前に父や母に俺は実力が高すぎるくらいだとか言われていたけど、果たしてどうなんだろうか?

 確かにうちの故郷はなかなかに大きい街だ。

 それでもいち街でしかない。そんな中で優秀だからと言って高飛車になって自惚れられるほど俺は肝が座っていない。




 結果は、正直言い方は悪いがなんだそれ? と言いたくなってしまった。

 もちろん彼らが真剣にやっていないとか、ふざけているとかそういうわけではない。

 ただ単純に2回以上的にまともに当てられる人すら少ないのは正直びっくりだったのだ。

 王都周辺からやってきている生徒もいる。ならうちの故郷よりも発展している街だから、優秀な人も多いはずだと思っていたんだけど、結果は微妙……。


 アニエスは結構な出来だと褒められていた。本当にすごいことだ。何度か俺がコツを教えたことはあったけど、それ以外は彼女だけで今まで努力してきていた。

 アランに関しては全弾命中、及び二発目は的を部分的にではあるが、壊していた。



 さて、次は俺の出番だ。ここでようやく、俺は1番重要なことに気づいた。むしろなぜ今まで気づかなかったのか……。俺の適性バレるじゃん。

 正直この多勢の人々に炎適正であることを目撃されるのは怖い。俺は今まで恵まれた人に出会っていただけだ。だからこそ、今後もそういう人ばかりとは限らない。

 でも、仕方ない。


(いずれはバレるんだ。この際、とことん実力を見せつけて余計な奴が絡んでくる気も失せるような結果を残してやろう! それが1番の安全策だ)

 


 ああ、最悪だ。せっかくアランやベルリオーズ騎士様が黙っていてくれたのに、これじゃ、全く意味がない。

 まぁ、でもいずれはこうなる運命だったんだろうな。


(仕方ない。幼稚園や保育園に預けられて、親から離れるのが嫌で泣いてる子供でもあるまいし、この際もっとオープンに行こう! 好きに生きるって決めたんだし)


「では、君。お願いします」

「はい」


 俺は単純ながら、見た目が派手なものを3つ選んだ。


火炎放射(かえんほうしゃ)!」


 俺の手からとんでもない熱量を持った火炎が、前方に指向性を持って進んでいく。

 そしてその色がどんどんと青くなっていく。そのすぐ後、的に命中。


 激しい轟音、衝突音と共に炎の爆発が起こり、それが止んで視界が開けた時、


 的は跡形もなく消え去っていた。ドロドロに溶解した地面だけを残して。


「な、なんと凄まじい威力だ……いや、それよりも! 君は炎適正なのかい!?」

「そうですね」



 その後、試験監督者は何か言いたげだったが、試験は試験。俺の邪魔はしてこなかった。


「次は……炎鎌(えんれん)!」


 炎の斬撃が的に向かって飛んでいく。ものすごい速さで的に衝突した炎の鎌は、窓を真っ二つに両断して、その後も勢いが衰えることなく、奥の壁に激突した。

 壁に大きな損傷を与えながらもその炎はやがて姿を消した。


「次が、火槍(かそう)!」


 大きな、それこそ全長だけで3メートルはあり、太さは直径50センチくらいあるであろう槍が3つ目の的に向かって飛んでいった。


 そして衝突、爆発して激しい爆炎が巻き上がる。


「先生、こんな感じです」

「そ、そうですか。ははは……これは文句なしと言ったところでしょうか……」




 フラフラと立ち上がり、他の生徒の試験準備をする先生の背中には何故か哀愁が満ちていた。



 俺は自分の並んでいた場所に戻った。するとアランがヅカヅカと近寄ってきて、


「凄いじゃないか! セドリック! 君はなんて凄い魔法使いなんだ! 本当に凄いよ!」


 あの〜、アランさんや? 語彙力が物凄く退化しておりますぞ?


「あ、ありがとう。これで炎魔法使いであることはバレてしまったけど、なんとか馬鹿にされないような成果を残せたかな?」


 俺がそんなふうにいうと、アランがポカーンとした顔をした後、何故か顔を赤くして怒り出した。


「何を言っているんだ君は!? そんなに凄い魔法を使えるのに馬鹿にする人なんているわけないだろう! いたら僕が木剣で叩きのめしてやる! それに炎使いがなんだっていうんだい? 確かに君の境遇や辛さ、抱えるものは僕なんかには到底分かるものじゃないだろう。でも寄り添うことは出来るし、そもそも属性なんかでその人の優劣なんてつけられていいわけがない! 僕は君は君だと思ってる!」


 俺はアランの言葉に圧倒された。俺は俺、か。そんなこと考えたこともなかった。

 好きに生きると決めてはいたけど、やはり心のどこかで周りに気を遣ったり、自身が不安に感じていたりしたんだろうな。だから素直に自分を認めて堂々と生きるってことができていなかったのかも。


 なんだか、今の言葉で俺の中の重い荷がふっと軽くなった気がした。

 そして、気づいた。仮に周りの人全てに認められなくても、こうやって1人2人でも自分を認めてくれる人がいればそれだけでいいんだって。


「そうね、セドは色々考えすぎかも。もうちょっと周りのことを考えずに生きてみたら? それに学園でセドを馬鹿にしたり、貶めてきたりする人のことは深く考えなくても良いかも。だって学園内では差別や立場の弱い人を踏みつけにするようなことは禁じられているもの。実際、入学資料のところに書いてあったわ」


 本当に2人の言う通りだ。色々気にしすぎだったのかな? 俺は。


「うん、そうしてみる! ありがとな、2人とも」

「良いってことだよ」

「私はいつでもあなたの味方だからね」


 そうして3人で改めて絆を深め合っていると、試験が終わった。さあ、明日は結果発表だ。

 今日はゆっくり休んで英気を養おう。



 


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