3年後 王立人材育成学園
騎士様の治療、あの日から早3年が経った。そして俺は10歳となり、この世界では学園に入れる年になった。
ちなみに学園は誰でも入学可能だ。だが、入学時に実力試験が実施され、それでクラス分けを編成する仕組みらしい。
ここで良い成績を残せれば、入学時点で上位クラスに編成され、この時から成績にかなり加点がなされる。
だが点数が低いと学校を出て行けとは言われないが、最底辺クラスに編入され、そこからの成績巻き返しに結構苦労することになるようだ。
俺はこの3年間で読み書き算術、国史、世界史、地理そして、魔法に剣術と高度なレベルで修めた。
父や町長からもぶっちゃけ俺世代の子供の中ではぶっちぎりだと教えてくれた。
なので学園入学に関しては実力面では何も問題がないとまで言われている。
しかしその俺の魔法に対する評価はあくまで世間一般で広く使用されている魔法や父さんや他の街の人々の中で魔法が得意な人の自慢の魔法を修めたことに対するものだ。
「多分、俺が既に自分用に魔法を開発していることを知られれば、もっと評価が変わるんだろうけど、別にそれは言わなくても良いよな」
基本的に自作魔法というのは自分の魔法研究の努力の結晶みたいなもの。
俺自身も前世の知識があるとはいえ、開発自体には時間がかかった物なんていくらでもある。
だからあんまり人に喋るのは自分の努力を掠め取られる可能性に繋がる。
例えば自分は普段自作魔法をひけらかすようなことはしていなくて、たまたまとある人物に話したとしよう。
その後、その人物がこの魔法は自分が作った物だ! って吹聴して回った場合、もうその後から本当の著作権は自分にあるよなんて言っても手遅れだ。
ネットの個人情報管理のシステム、個人情報保護法や著作権法なんてものがないこの世界にそんな権利の保護は約束されない。
故に簡単に話してはダメなのだ。本当に人間というのは(あくまでこの世界の人間の話)恥知らずな生き物で、他人の努力を恥じらいも、罪悪感もなく奪っていく。
と、なんか実感があるように言っているが、あくまでこれは書籍の知識だ。
最近まで読んでいた本、"自作魔法の情報の保護"という本を読んでいて、過去に偉大な魔法使いたちが何度もそういうコソ泥どもに研究の成果を奪い取られていたらしい。
しかもその数が出るわ出るわでおびただしいのだ。
結局のところ、成果を奪ったところで本人のように完璧なイメージは出来ず、拙い魔法を使っているところを周りに見られた後に、さらに畳み掛けるように本人の魔法を第三者たちが見てしまい、研究成果の窃盗というのが次々に明るみに出たらしい。
その教訓をもとに今読んでいるような本がたくさん出版され、前世の世界風にいうと、"自作魔法詐欺"がなくなっていったようだ。
そんなこんなで詐欺事態を働く人は少なくなったようだけど、それを全面的に信用して良いわけではないだろうな。
というわけで、俺は家族以外には話していない。家族にも今の内容の話をして、言いふらすことのデメリットを説明すると納得して黙っていてくれるよう約束してくれた。
そうして学園に入るため、いろいろな準備や、日々の訓練、勉強を怠らず頑張る毎日を送っている。
前世でいう春ごろになると学園入学が本格的に話題に上がり始める。
ああ、それと春というのはあくまで前世での概念だ。この世界に四季という概念は存在しない。
あくまで地味に暖かい時期、すごく暑い時期、涼しい時期、寒い時期に分けられる。
一応、概念としてはなくても四季そのものはある模様。
そして、試験の前日に家では盛大にお祝いがなされた。新たなる俺の門出を祝う祝宴だ。
ちなみにその席には俺の弟、セザールがいる。2年前に誕生した8歳年下の可愛い弟だ。
今だって、
「にいさま~、ガクエン? はいる、おめれとう!」
「ああ、ありがとうセザール。本当にお前は可愛いなあ。兄さんと一緒にご飯食べる?」
「うん! 食べゆ!」
ニコニコ笑顔でお肉やら何やらを口いっぱいに頬張る姿を見て、この子は将来大きくなるだろうなーと漠然と思ったのだった。
それと、最近気づいたことなんだけど、俺の家はこの町では相当に裕福な方らしい。
町長の次くらいに稼いでいる家なんだと。確かに食事や何かしらの生活に苦労した記憶はあまりない。
そういうことか。だからか、弟のセザールは自然と言葉遣いが丁寧になっている。それも相まって可愛さが増している。やっぱり言葉遣いは人からの印象を変えるね。
(とにかく今日はいっぱい食べて、いっぱい寝て、明日への英気を養うとしよう)
そう考えて、弟と楽しくご飯を食べながら時には遊び相手になってやったりと時間を過ごし、その後は父さんと母さんと3人でこれからのことを色々と話して、すぐにセザールと2人揃って寝床についた。
ははは、寝床にまでわざわざ入ってきて一緒に寝ようとするんだから、本当に可愛すぎて困った弟だよ。
翌日、試験当日の朝。
「忘れ物はないか?」
「うん、大丈夫だよ父さん。試験では頑張っていい成績とって上位教室に入るよ」
「ははは、それはお前、もう確定していることだよ」
「?」
父さんがよくわからないことを言うので首を傾げていると、母さんが俺に抱きついてきた。
「しっかりご飯食べるのよ。学園の食事は充実してるっていうから沢山おかわりしなさい」
「母さん、いつも美味しいごはん作ってくれてありがと。しばらく母さんのご飯は食べれないけど、学園でもちゃんとご飯は食べるよ。だから心配しないで」
「愛してるわ」
「俺もだよ。父さん、母さん、そしてセザール。行ってきます」
「あい! いってらったい!」
父さんと母さんは静かに頷いて、セザールは大きく手を振って見送ってくれている。
だけど多分、セザールは俺が学期が終わって長期休暇に入るまではしばらく家に帰ってこれないことは理解していないんだろうな。
全然俺が帰ってこないことに気付いて父さんと母さんに泣きじゃくって困らせないか心配だな。
あんだけ懐いてくれていたからな。
でもまあ、こればっかりは仕方ない。国の決まり事だ。一兄弟の都合で政策は変えられない。
学校に行くべき年齢だから行く。だから長期休暇になったらセザールといっぱい遊んでやろう。
それが無条件に俺のことを大好き大好きと慕ってくれる弟に返してやるべき対応だろう。
よし、それじゃあ気持ちを切り替えて頑張るか!
その後は途中でアニエスと合流して一緒に試験会場に向かった。
王都についた。はっきり言って街の規模の次元が違いすぎる。俺が住んでいた町も結構裕福みたいだけどそんなレベルじゃない。
外壁がとんでもなく頑丈な石材で覆われていて、高さも優に10メートルは超えるだろう。
そして街並みも廃れているところなんてほとんどない。もちろんスラム街のようなものがないわけではない。
だけどこの規模の街で数えられる程度しか貧民街がないというのは凄まじい発展ぶりだ。
まあ、前世の街並みには当然だが及ばないけどな。
それでも十分に発展しているのは間違いない。
と、そんな感想を抱きながらアニエスと一緒に歩いていると、正面から数名の集団がこちらに向かって歩いてきている。
1人が先頭を歩き、それに侍るような形で人が数人ついてきているのを見るにおそらく貴族だな。
絡まれたら面倒だ。端に寄ろう、そうアニエスに提案して横にずれた。
「絡まれないといいけどね」
「まあ、何もしなければ大丈夫だろ」
と、俺たちはこの時軽く考えていた。が、何故か運命とはいつも難題を押し付けてくるようで、
「おいそこのお前たち、止まれ」
「? 俺たちでしょうか?」
「お、俺たち!? おまえ、一人称もまともに扱えないのか! その年齢でこの街にいるということは、学園入学者だろう! それなのに、貴族に対して俺などという一人称で話すなんて!」
うわ~めんどくさ。いや私やらわたくしくらい使えるわボケナス。面倒なのにわざわざ相手してやってんだよ。
空気読めよ、KYか? お前。
いや、このネタ古いか。
とにかく、そんな気持ちを顔に出さないよう注意しながら、丁寧に対応していく。
アニエスは完全に萎縮しきりだ。俺が対応しなければ。
「これはこれは、失礼しました。私が住んでいた街はそこそこな大きさでしたが、それでも身分あるお方とお話をする機会にあまり恵まれなかったため、作法には疎いのです。どうかご容赦願えないでしょうか?」
「ふーん、ただのアホかと思えばまともに話せるじゃないか。なら初めからそうすればいいものを」
いちいち、癪に触るガキだな燃やすぞ?
言っとくけどな! 俺、前世も合わせれば28歳だぞ! 年上だぞ!
なんて考えても仕方ないことを考えながら対応を続ける。
「ある程度の礼儀は教え込まれております」
「そのようだな。で、用件だが、貴様ら俺に付き従え。そうすれば面倒を見てやる」
「あ、いらないんで結構です」
「な、なんだおまえ! 不遜な態度を取りやがって!」
我ながら驚いているよ。もうね、反射的に拒絶してた。本能で直感したよ。こいつに着いていったら破滅が待ってるって
そう思っていると、
「だ、ダメだよセド。相手は貴族様だよ?」
「そ、そうだぞ! そんな態度をとってただで済むとでも思ってるのか!」
確かに、貴族に楯突くのは不味いか。どうする? 面倒くさい状況になったな
そう思っていると、
「おい、お前たち! 何をやっているんだ! 貴族が平民相手に寄ってたかって情けない真似をして!」
後ろからいきなり声がして、誰だと思って振り返ると、金髪で少し背が高めの、同い年くらいの少年が仁王立ちして、貴族の子息たちを睥睨していた。
(ん? どっかで見たような顔立ち……)
そう思って見ていると、
「お、お前は……! ベルリオーズ家の! チッ、お前ら行くぞ!」
数分後……
「やれやれ、民を引っ張る存在があんな情けない姿を晒すとは」
「あ、貴方は?」
貴族の子息たちは撤収し、目の前には金髪の少年のみ。俺は自然と話しかけていた。
「ん? ああ、君たち大丈夫かい? 僕はアラン。アラン・ベルリオーズだ。ベルリオーズ騎士爵家の嫡男だ」
「あ、はい大丈夫です。ありがとうございます。俺はセドリック」
「私はアニエスです」
「よろしく、セドリック、アニエス嬢。ん? ああ! もしかして君かい? 騎士である父を瀕死状態から助けてくれたっていうのは!」
そう言われて俺はようやく繋がった。この少年、どこからどう見ても、俺が3年前に助けた騎士と同じ顔なんだ。
いや、同じは言い過ぎか。でも結構似てるんだ。
「確かに。以前、街に来ていた騎士様を助けたことはあります」
「やっぱり! なら君が……うん、本当に強そうな雰囲気をしている。よし! 友達になろう!」
「え!?」
「嫌かい? 僕は父を助けてくれた子とぜひ仲良くなりたいんだけど」
俺とアニエスは状況に追いつけず、お互いにアホヅラで見つめ合っている。
「僕たちは平民ですが……」
「それが何か問題でも?」
ああ、なるほど。さっきの貴族の嫡子たちが苦々しげな顔をしていたのはそういうことか。
この子と、あの騎士様は一般的な貴族たちとは少し感覚や考えが違っているタイプの人たちなんだ。
それで煙たがられてるんだな。
でも、それなら、
「いえ、なんでもありません。よろしくお願いします」
「私も、よろしくお願いします」
「ああ! よろしく!」
こうして俺たちは心強い味方が友達になったのであった。
本日もありがとうございました!