元カレを理由に彼氏との行為を拒んでいたら、いつの間にか彼氏が彼氏の幼馴染に寝取られてしまいました
告白した側と、された側――恋人関係を構築する際に、どちらが優位になるかと言われたら、恐らく後者だろう。
告白された側は、告白した側の付き合ってほしいと言う頼みを聞いてあげている訳だ。ある意味で恩を売っている形になる。
ちなみに言うと僕は前者――告白した側だ。だから僕は彼女に文句が言えない。例え彼女が僕以外の人が好きだったとしても。
僕――相良宗平には中学時代から付き合いのある恋人がいる。
彼女の名前は、古里弥生。弥生と僕が交際を始めたのは、中学3年の時だ。
そこから高校2年の今に至るまでの2年近く、交際が続いてるのだけれど、彼女と僕の関係は深いものにはなれていない。
弥生がずっと、元カレのことを想い続けているからだ。弥生の元カレ――永井守康くんと弥生は、そういうことをするくらい仲がよかったらしい。
僕がキスしようとしても、手を繋ごうとしても永井くんに悪い気がすると、全部拒まれてしまう。
次第に僕も、弥生に対してそういうことをしようと思わなくなった。
弥生にとって、永井くんは絶対的な存在であり揺らぐことはない。僕はそれを承知で彼女と付き合った。
僕と弥生は、休みの日に遊びに行くだけの関係であり、ただの友達となんら変わらない。友達を恋人という言い方にしただけなのだ。
もう限界だった。これから先、彼女と明るい未来があるとは思えなかった。
どうにかして現状を打開したい。そう思い、弥生との関係を幼馴染の深野瑠花に相談した。
「そうくん、完全にそれ脈なしだよ。そのまま付き合ってても辛いだけだよ」
瑠花の言葉は残酷だった。
彼女曰く、弥生は僕を永井くんの代わりにしているらしい。
彼への未練を断ち切ろうとはしているものの、弥生は永井くんのことを一生忘れることはないそうだ。
故に僕はずっと永井くんと比べられる。そして、永井くんより劣っているとの烙印を押され続ける。
「元カレのいる女の子はそうくんには荷が重いと思うよ。今まで黙ってたけど、私、そうくんのことずっと好きだったんだ。だからさ、古里さんと別れて私と付き合おうよ」
元カレのいる女の子は僕には荷が重い――確かにそうなのかもしれない。
僕は弥生の気持ちを僕に向けさせることはできなかった。このまま付き合ったところで、彼女の気持ちを変えることは僕にはできないだろう。
なら最初から僕のことを好いてくれる幼馴染と付き合った方がいい。瑠花なら僕のことをよく知っているし、気を遣わなくて済む。
「うん、わかったよ。弥生と別れて瑠花と付き合う」
「やった! これからよろしくね! そうくん」
★☆★☆★☆
2年近く付き合っている彼氏に、私は嘘をついている。私には元カレがいて、彼のことを引きずっていると。
私は宗平くん以外の男の子と付き合ったことなんてない。彼以外の人を好きになったこともない。
なら何でそんな嘘をついたのか。男の人とキスとかそういうことをするのが単純に怖かったからだ。
男の存在をちらつかせれば、彼はおよび腰になるだろう。そんな考えから、私は宗平くんに元カレがいると嘘をついた。
でももういいだろう。私もそろそろ恋人らしいことをしてみたい。そう思っていた矢先――。
「弥生、僕と別れてほしいんだ」
「え?」
寝耳に水だった。突然宗平くんに別れを切り出された。
「ごめん……。多分僕、弥生に相応しくないんだよ」
「そんなことない!」
「僕、ずっと永井くんに嫉妬してたんだ。羨ましくて羨ましくて仕方がなかった。醜いよね」
「あのね……永井くんのことなんだけ――」
「それじゃ」
「ちょっ! 待って!」
必死に食い下がったものの、宗平くんの意思は変わらなかった。彼は私に背を向け、振り返ろうとはしなかった。
宗平くんと別れてから、私は脱け殻のようになってしまった。何がいけなかったのか、何が間違っていたのか自問自答する日々が続いた。
そもそも何故宗平くんは私と別れようと思ったのか、それが分からなかった。
彼と喧嘩をしたこともなかったし、嫌われるようなことをしたこともなかった。
「!?」
教室で宗平くんの隣にいる女を見て私は答えにたどり着いた。
彼の隣にいたのは、彼の幼馴染の深野瑠花。深野は私と宗平くんが付き合いだしてから、私のことを目の敵にしていた。
靴に画鋲を入れられたり、机に落書きされたりと日常的に深野から私は嫌がらせを受けていた。
きっと彼女が宗平くんに何か吹き込んだに違いない。私は深野を学校の屋上へと呼び出し、彼女を問いただすことにした。
「なに? 私忙しいんだけど」
私を前にして、深野は平然としている。この女狐は宗平くんを誑かしたことに何の罪悪感も抱いていないようだ。
「宗平くんに何を吹き込んだの……」
自分の声が震えているのが分かる。彼女に対する憎しみとそれを押さえつけようとする理性で、揺れ動いている。
「別に……何も……」
「嘘つかないで!」
「はぁ? ウザいんだけど?」
落ち着け私。落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。
「宗平くんは私のことが好きだった。あんたが何かしたんでしょ。じゃなきゃ、宗平くんが別れたいなんて言うはずがない」
「ふーん、そう思ってるならそれでいいんじゃない? だいたいそうくんは元々私のものだし。先に何かしたのはあんたじゃん?」
「いいから答えなさい!」
「はいはい。じゃあ、頭のユルい古里さんに教えてあげる。古里、あんた、そうくんに何もしてあげなかったでしょ?」
「え?」
「そうくんはあんたとキスしたかった。エッチしたかった。でも、あんたはさせなかった。しかも元カレを理由に」
「だから何よ……関係ないじゃない」
「はぁ……。これだけ言ってもまだ気付かないの? あんたは元カレにさせてあげたこと、そうくんにさせてあげてないの。つまりそうくんは、あんたにとって自分は元カレ以下の存在だと思ったわけ」
「私は永井くんとはなんでもない!」
「それが本当かどうかはどうでもいい話よ。そう思わせたことが問題なの。男の子が、自分を一番に見てくれない女の子のことを好きでいられると思う?」
「う……」
大丈夫。きっと宗平くんは深野に洗脳されてるんだ。
この女はそれらしいことを言ってるだけで、何一つ証拠は出していない。もし本当に宗平くんがそう思っていたならば、私に言わない訳がない。
最悪宗平くんが深野と関係を持っていても、私のところに戻ってきてさえくれればそれでいい。私はそういうのは気にしない。
「なんか現実逃避してるとこ悪いんだけど、今さらあんたが何をしても無駄よ。私とそうくんは切っても切れない仲になったんだから」
「どういう意味よ……」
「あんたがそうくんにできなかったことを私が全部してあげたの。臆病なあんたと違って」
「うるさい!」
「こら、そんなに暴れないの。ちゃんと産んであげるから。ごめんね、ママお話し中だから、静かにしててね」
深野が愛おしそうにお腹を擦る。彼女への怒りで見えていなかったけど、深野のお腹はほんの少し膨らんでいる。
さっき彼女は言った。自分と宗平くんは切っても切れない関係になったと。私がいくら喚いてももう手遅れだと。
…………え?
「あんた……まさか……!!」
「うふふふ、やっと気付いたのね、お馬鹿さん。そうよ、この子はね、私とそうくんの――」
うわあああああああ!!
最後まで読んでいただきありがとうございました。