むなしいと
若槻は武田と会ったことですっきりとした晴れた気持ちが沸き上がっていた。武田は若槻が警察に入るといった時に驚くようなそぶりもなかった。そうかとつぶやくだけだったことを思い出した。武田に会った後にすぐにアパートへと帰った。連絡を入れたのでどうこういわれないだろう。残業続きだったことをかえって来た時に目に入ったカレンダーに映っていた。刑事という職業についてから家族とも縁を切ったというより幼いころに切ってしまった。会うことも帰る場所もなくなったことをその時に知った。抗えない現実と引き換えに失ったものを眺めていたのかもしれない。大学の教授から言われたことがあった。
「お前はきっといい警察官になる。ただ、心配なこともあるからな。なってじっくり考えろ。そんな暇ないかもしれないがな。」
もしかしたらまやかしのような言葉だったのかもしれない。それでも信じていたかっただけなのかもしれない。冷蔵庫から冷え切ったビールを取り出した。テレビではうるさいだけの音を鳴らしていた。切ったところで静まり返ってしまう。若槻はテーブルの上に缶詰を出した。鯖缶を取り出した。開けたのだ。箸でつまんだ。アパートへとかえって来ることが少なくなってしまってから缶詰やインスタントラーメンがもっぱら多くなってしまった。むなしいとも思うこともなくなってしまったのだ。子供ながらに失ったものを探すこともなかった。
「俺がバカだったのかな。弟ごときに親取られてさ。」
病人だったのは仕方ないというのは頭でわかっている。それでもだと思っているのだ。墓参りも行かないのはそういうことだ。弟もいなかったことにしている。母親は何処から知ったのかわからないが、携帯にかけてくるのだ。それも無視をするのだ。老人ホームに入る金が欲しいだの言ってくるのだ。今更親の面をされたところで止まっている時間というのは変わらないことを実感している。警察に入ったことを知らないのだろう。親戚が会ってくれないと嘆いているのを聞くと聞かされた。自業自得なのに他人行儀なのだ。
「俺はリーチの事件を解決しないとな。ことの発端くらいは始末しないと・・・。」
新聞を読んでもくだらないことを見ている気になってしまう。政治家は成果をでっち上げたり自分のことを棚に上げたような外交をしていたりするのだ。犬のように這いつくばっているだけなのだろうからと。飲み切ったビールを眺めた。むなしいものがあふれかえっている。




