あからさまな嘘
翌日になると生稲が来ていた。若槻から警視庁へと戻るように言われたのだろう。少しばかり怯えた顔をしているようにも思えた。自分の机に座っていた。捜査一課の連中は何も言えないのは、遠藤にこっぴどく叱られたことにもつながっているのだろう。若槻は来るなり生稲に声をかけて連れてきた。
「俺が休んでいたのが悔やまれるな。」
「いいんですよ。若槻さんは。俺たちは好んで来ていたんですから。・・・それと昨日、刑事部長が来たんですけど、遠藤さんが撃退してくれました。」
「遠藤さんには頭が上がらないんだよな。あの人は俺が師匠と慕っていた人の部下だったんだ。上に逆らうのはもっぱらその人のやり方でさ。逆らうことで目をつけられても大事にしないといけないことがあるって言っていたよ。」
若槻にもかつては・・・と思うことがあるのだろうか。懐かしむような恰好をしていた。隣にいる生稲は居心地が悪そうにしているが、捜査一課のところにいるよりはましなのかところどころで笑みを見せている。
「そろそろ榎並にぶつけてもいいころかななんて思っているんだよ。証拠もそろっているし。鑑識の奴を連れていくしね。」
「準備をしましょうか。」
間瀬が何処かに隠していた熱意が見えた。パソコンを扱っていることに変わりないが、パソコンの画面が複数に増えている。ボイスレコーダーを動き出している。
「生稲、驚いたか?」
「えぇ、前までバカにしてすみませんでした。」
「いいんだよ。君には改心する兆しが見えるが、君の相棒は全くといっていいほどなかったんだ。だからこそ、週刊誌に事実を書かせたまでだ。」
若槻は遠巻きで見ていないふりをさせていながらじっくりと行動を見ていたのだ。生稲は益子にちょっかいを出すためにこちらに目を向けているのではないのだとわかったのだ。資料を覗くために来ていたこともわかった上だったのだ。ある種のスパイだったのだ。捜査一課にとっては残酷なまでのスパイだとばれてしまってはいけないと思った。切り捨てる方法を考えてしまったのだ。若槻によって阻まれてしまったのに不満がきっと漏れているのだ。処理能力を持ち合わせていない刑事部長はただおどおどしているだけに過ぎないのだろう。
「間瀬、榎並邦彦の近日の日程というのは挙がっていないのか?演説やら講演会とかないか。」
「探しますよ。・・・懺悔にしないから公の場で辱めたいんですね。」
「理解が速くて助かるよ。」
間瀬はにやりと笑った。その顔を見て若槻は満足気だった。




