分析と足
「もっぱら刑事部長に逆らうこともできる人間は2人だけなんだからな。少ないじゃすまないくらいに風通りが悪いってな。」
「そうだよな。風通りがいいのならもっといいようになるよな。組織自体が不正隠しをするような恥の上塗りを加速させたりしないよな。」
クッションのいいとは一概にいえないベンチに座っているのも落ち着くものなのだ。益子は見つめていた缶をゴミ箱へと捨てた。かすれた音がした。佐伯は鑑識で腕を磨け上げている。職人という部類とそう変わらないのを理解している。最新の知識にいち早く行動をして得ていないと乗り遅れてしまう世界なのだ。
「佐伯、遠藤さんが呼んでるぞ。一課の指紋を見てほしいって。」
「俺じゃなくても誰かできるだろう。一課なんて当たりもしないものを出せばいいと思っているだけなのだから、時間の無駄。まぁ、遠藤さんからの呼び出しだからしょうがないか。・・・今から行くって言っておいてくれ。」
一課の刑事なのだろうか。清潔感と正義感を合わせたまだ飲まれていない青年といってふさわしいほどのオーラを漂わせている黒縁の眼鏡をかけた男性が言った。佐伯は缶をベンチにおいていったまま、急いで行ってしまった。残ったのはその清潔感と益子だけだった。息苦しいほどの沈黙が漂っている。別段、にらんでいるってこともないので全くといってことが進まない。
「君は捜査一課の所属ですか?」
「はい、でも捜査一課って思っていた感じとは違っていました。上の指示があればすぐにでもやめてしまう。曖昧にしても悪気はない感じが・・・。身内だともみ消すなんてあってはならないんですよ。手本と名乗っているほどです。」
話しかけてみると捜査一課にいるにはにつかわないほどの正義感だった。生稲とは違うのだ。出世が全てではないことを理解している。生稲は全ての指示に対して首を縦に振ればいいと思っているのだ。だから、意見をもっていないのと同じになってしまう。1つの駒としての扱いになってしまった。
「貴方のことは聞いています。若槻さんに選ばれた人は腕がいいか腕が良くなるといった可能性まで見られて入れるのだと。生稲さんと貴方、どちらがいいかと聞かれたときに若槻さんは迷わず、貴方を選んだといっていました。」
此処に来た時の噂は益子は足で稼ぐタイプだと評価されていた。生稲は分析型で所轄の時は強さを発揮していた。データから見えない部分も見つけ出していた。今やその分析力は落ちてしまった。