傷の勲章
中学の時は情けでまるで雇ってもらっている気分だった。そのこともあって母親と父親は親戚中から非難を受けた。高校くらいから親戚の人に養ってもらった。大学へ行くことにしても反対をすることもなかった。高校の時に親戚に飲食店をやっている人がいたので、そこでバイトをしてお金を貯めた。親戚の人とは頻繁に会っても親と顔を合わすこともなくなっていった。提案として養子として引き取りたいといった親戚がいたのだが、嫌がったのだと聞いたことがある。父親は会社員だったのを脱サラをしてまで喫茶店を開いたのは弟の時間が欲しかったからに過ぎないのを知っていた。その店も浮かれ気分で政治家になろうとして近所の人が流した噂でいられなくなったという。天罰が食らったと思った。
「今の実家にいらっしゃるの?」
「いません。喫茶店もつぶれて借金にも追われて追い出されるようにしていなくなったと聞いてます。まぁ、聞いたところによると親戚が政治家になるみたいな話を聞いて何を言ってるんだっていう気持ちになって悪い噂を流したって言ってました。そしたら、瞬く間に広まったって。」
「それじゃあ何処にいるのか知らないのか?」
若槻は自信ありげにうなずいた。酔っぱらっているのかボロボロと漏れているようにも思えた。若槻は言うだけ言って机につぶれた。
「知らなかったでしょう。こいつが親から愛されていないことを知られたくなくて黙っていたんですよ。師匠が問いただすと小声で言ったみたいです。聞いたときはなんていう親だと嘆いたと聞きます。」
「大学へ行けたのも親戚のおかげだといって親戚の人を集めて忘年会を開いたりするみたいですしね。」
遠藤はまるで自分の息子のように眺めた。彼のさらさらとした髪をなでると気持ちよさそうに動いた。益子の母親と父親はもっとしなければいけないことが多いと思っている。彼女は裏から瓶ビールを取り出してキープ用の札をぶら下げた。油性のペンで手書きで若槻と書かれた。苗字しか知らなかったからだ。
「あの~、若槻じゃなくて、純太にしてもらえないですか?」
「いいわよ。付け替えるだけだもの。息子みたいでかわいいのにね。本当に愛されないなんて・・・。」
彼女は紙の伝票を取り出して裏に遠藤が書いた。彼女は名前を見て素直だとも純粋だとも思った。態度には不器用になってしまうだけなのだと思った。瓶ビールに札が居座っているようにあった。遠藤はそれを見てほほえましいと思った。




