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叫騒の歌  作者: 実嵐
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過去の傷

weekdayの記者は急ぎだと告げた後に小さなグラスに入っていたビールを飲み干して出て行った。静かになった居酒屋はお皿をかき鳴らす音だけが響いていた。

「大変ね。警察って。組織のために動いているのに、間違えた判断をしてしまうんだものね。」

「それは仕方ないで済ますんだから、やりきれないよな。」

全く関係ない人に同感してもらっていた。若槻は空気に耐えきれなくなって瓶に残っていたビールを注ぎ込んだ。その時にドアがガラガラとあいた。女性が理を言おうとすると少し年老いた男性は手をかざした。まるで知っているかのようだ。

「若槻君が此処で飲んでいると聞いてね。」

「何処から漏れたんです?俺は誰にも言ってませんよ。遠藤さん。」

遠藤は不敵な笑みを見せていたところからすると間瀬や益子から聞いたといったところだろうか。関係なく遠藤は焼酎を頼んだ。それもロックだった。遠藤は時々、忙しい合間に酒を飲む場を欲しがるのは知られた話だ。

「それにしても会っているのかあの人に?」

「会ってません。老人ホームに行ったと遠藤さんから聞いてから全くですよ。会ってるんですか?」

「あぁ、お前に会いたがっていたぞ。老人ホームにいても退屈だといっていてね。家族もろくに会いに来ないからって。話はもっぱら鑑識のことしかないみたいだ。まぁ、あの人も新聞の下の広告で若槻君かどうかが分かるようになったってつぶやいていたよ。」

そう笑みを浮かべながら言うと焼酎をがぶ飲みした。遠藤は若槻が事件を解決していないのに飲むことに対しては気にしていないようだった。遠藤は催促するかのように言われるが、師匠に会っても自分のふがいなさを露呈するのが怖くて仕方ない。落ちぶれたようにも思えた。つまみを随時出してくれるのを感謝した。

「お前、親に会っているのか?」

「会いませんよ。俺のことなんて考えてないんでしょうから。会うだけ疲れるだけで会いに行くほどじゃないです。」

「そうか。それはあれか。弟のことか?」

「はい。」

若槻には2歳下の弟がいた。幼いころは2人仲良く遊んでいたが、弟が幼稚園の年中の時に病気を発症した。それから若槻のほうに構ってくれなくなったのだ。何度も病院に入りなおすことも多かった。そして、弟が小学校6年生の時に死んだ。親は涙に暮れていた姿を見たが、何も思わなかった。それはお通夜が済んだときに純太に向けて言われたのだ。あんたのほうが死ねばよかったと。それから高校を出た後、東京の大学に行き東京で就職をした。会社のとかは全く相談もせず、実家に帰ることはなかった。それは自分の部屋はなくなっていると思うからだ。時々気休めに母親から電話がかかってくるが無視をするようにしている。

「そんなことがあったの・・・。」

「いいんですよ。今更頼られたって気分が悪いですから。」

「それはそうよね。」

益子の母親は寂しそうに言った。

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