真実と対面
「ビラを配っているってことは母親は殺しだって確信したときがあったのか。父親が知ったのを代わりにやっているんじゃないのか。もっていないか、そのビラ。」
「もってますよ。喫茶店のマスターがやるせなくなってしまうから配られる度にもらって帰っているといってましたから。人は多くないですけど、貼っているんですって。」
信号待ちになった時に小さな鞄からビラを取り出した。そこ書かれているのは几帳面な性格が分かるほどだ。警察から聞いたことを全て書き込んでいるのだろう。細かい項目にびっしりと書かれている。
「警察がいっていない情報も載っているな。父親から請け負いだろうな。見る人が見ればわかってしまう。犯人にとっては隠しがたい情報も盛り込んでしまったらアウトだろうな。毎年、更新されているとしたら・・・。」
「狙われるということですね。」
若槻は黙って首を縦に動かした。霊園につくとすぐに高木幸喜の墓へと向かった。そこには少し年老いたように映る女性がしゃがんで手を合わせていた。きれいな花束をもって来たのだろう。花束には菊の花は混ざっていなかった。静かな時間が流れているような気がした。手を合わせて済んだのか小さく声をかけて立ち去った。女性が立ち去った後に管理会社から買った花を手向けた。豪華になったようだ。若槻が手を合わせるのを見て、益子も手を合わせた。
「益子、無念を晴らすのが刑事という仕事だ。組織に突き進むだけが、刑事としての生業とは違う。」
「はい。余計に感じました。」
益子は何時もより張った声で言った。本当に思っていることであった分、余計に感じてしまったのだろう。高木幸喜の墓から離れて管理会社へと向かった。すると、顔を見た管理会社の人が応接室へと入らせてくれた。お茶も出してくれた。
「来るのならいってくださったらよかったのに・・・。」
「いえ、事件が新たに起きてしまったので、罪悪感を感じてきたまでです。それで・・・高木幸喜が最初に入っていた会社の名前ってわかりますか?」
父親か母親が話しませんでしたかと付け加えて問うと管理会社の人は遠い目をして思い出し始めた。いっていたのだろう。
「何とか環境開発っていってました。内定ももらっていたのに、突然倒産した会社だっていってました。急いで此上つぶしに探したそうですけど、幸喜さんの思うような会社には内定がもらえず、泣く泣くハローバルに入ったんだっていってましたよ。墓じまいするとか話している最中に突然だったので覚えています。」
高木幸喜の父親と母親の名前も教えてもらった。父親は幸則、母親はあかねだそうだ。あかねも働いていたそうだが、事件が起きてから勤めていた会社を辞めてスナックかバーかを経営をしているらしい。




