口ぶり
現場にいってみると所轄の刑事も集まっていた。場所がちょうど警視庁が扱うか所轄が扱うか微妙な場所であったのだ。若い刑事はベテラン刑事の指示に従うために仰いでいた。ベテランのほうは貫禄があり、太っていることもあって汗をハンカチで拭っていた。益子は現場へと足を踏み入れた。遺体の顔を見たときに写真で幾度となく見てきたのだ。
「該者はいったい誰だ?免許証も所持していなかったぞ。」
「榎並渉です。榎並邦彦の義理の息子に当たる人物です。」
益子が声を上げると大声でいっていた刑事はにらみつけるような顔をした。何故知っているのだと思ったのだろう。彼がにらまれているのを知った若槻がのろのろと近づいて行った。
「俺の部下が何か悪いことしたか?所轄の刑事さんよ。嫉妬するのは勝手だが、大勢の前で恥さらす前にやめな。該者が悲しむ。」
「お前、どんな口のきき方をしていやがる。お前こそ何故此処にいる。」
「俺は今調べている事件に関係あるからさ。警視庁の捜査一課さんだって方針を変えようとした奴をやめさせようとするんだから困った連中だ。組織のためじゃない。自己満足や自分が満たされるために事件を扱うならやめてしまえ。」
若槻が言っている言葉で警視庁の人間であることが分かって言葉を詰まらせた。たぶん、噂されていることもあって喧嘩を売った相手を間違えたと思っているのだろうか。言葉を聞いた後にすぐに謝罪をした。益子は後ろ姿を見ているだけであったが、背中には迫力が張り付いていた。若槻は何もなかったように該者の情報を片桐から受けていた。
「手口は同じか。道具は?」
「ハンマーですね。」
位置などにより警視庁が扱う案件となった。榎並は免許証をもっていなかったことからすると、車に乗らなかったのだろう。きっと、会社近くを動いていたこともつながるだろう。若槻は片桐から説明を受けた後、益子の横に立った。
「榎並と尾崎とかかわりがあるとすれば高木幸喜の父親だ。会ってみるか。」
「はい。ハローバルですよね。」
「そうだ。だけどな、今日は行かないぞ。高木幸喜の墓でも参ってみるか。」
殺されたであろう息子の墓を参るというのだ。何故とも思ったが、ちょうど殺されたと思われる日であったのだ。悲しみを思い出しくれているときに行くのはいけないと若槻が伝えているのだろう。黄色いテープを乗り越えて車に乗った。
「所轄だからって調子に乗った刑事がいるって聞いたことあったけど。あの程度を言っていたんだな。」
窓を見つめながら彼はつぶやいた。




