席と席の間
「そんな仕事も請け負っているんですか?データを扱っている部署って。」
「異例だよ。何を思ったか身内同然のところを探ったのは今の大きな事件が解決しないから苦肉の策だったんじゃないのか。俺も頼まれただけだから責任を1人に負わせるのも筋じゃないと思っているから。その時はお前の上司に相談するよ。」
「いつでもくればいい。」
後ろから声がしたので振り返ってみると扉の端に立っている若槻だった。何処から聞いていたかは謎であるが、答えているところを見ると検察くらいから聞いていたのではないのだろうか。若槻は鑑識の1人に指示を出していた。
「若槻君、調べものは済んでいるから引き取っていてくれないか?」
「何を調べてもらったんですか?」
「榎並だよ。榎並を当てれば確実にハローバルが当たるってわかったからな。」
榎並邦彦の妻はハローバルの弁護士をしているのだ。あらゆる事件の手法をとっているので、界隈では有名人らしいのが悪評ばかりしか聞かないらしい。ハローバルの弁護士になったのも親の請負だったりするので、七光りだともいわれている。
「それじゃあ俺は用事が済んだから。・・・そういえば、鵜坂、お前が検察のデータを調べろって言ったのは一括で捜査一課ってことになっているが俺からの指示だからな。まぁ、大きなことにはならないよ。」
「わかりました。有難うございます。」
若槻の弁解のごとく言い残していった言葉は人知れず守っているものであると思った。鵜坂は間瀬といまだに関係を切っていないことを若槻が知らないはずがない。理不尽な人事にはきっと声を上げるだろう。いつでもといってのけるほどの心意気がなければさせないことかもしれない。臆病になるのはいいが、怯えすぎて間違えてしまわないようにと。若槻はリーチの一件から警察も検察も弁護士会もきっと頭の隅に置かれているのだ。国会議員とつながりがあるほど権力をちらつかせたがるのだから。
「あの子みたいにね、人を統帥したりするのにはいい力なんだけどね。全く権力だけに頼った言い方は全て自分に返ってくるから気を付けないとね。」
遠藤は自分の子供のことを言うかの如く言った。それくらい見てきたのだろう。もしかすると自分の地位を投げ捨てようともしたのではないのか。それを止めてまで言ったのかもしれない。遠藤の目は儚い何かを見ているかのように。
「俺、戻ります。」
「そうかい。何時でも来ればいいよ。鑑識なんて道具としか見られなかったりするんだけど、あの子の教えは違うのは知っている話だから。」
そういって彼は自分の席へといった。




