写真の動き
「桜銀行ってかなり有名な銀行ですよね。都市圏だけじゃなくて地方にもかなり支店を出していると思うんですけど。」
「そうだよ。昔はそうじゃなかったらしいんだよ。今の頭取が昔の方針を変えて今のようにしたっていうことだよ。まぁ、若槻さんには今の専務と知り合いだから情報も早いことだ。」
「それでこんなデータがもらえたんですね。」
間瀬は少し濃いめのコーヒーを乾いた喉に流し込んだ。苦味が何を作り上げてくれるわけでもないのだが、パソコンに向かっているのが普通になってしまっているから。益子は刑事上がりということもあって現場について間瀬より知っている部分がある。それに口出しをする暇があったら自分のことに手間をかけているほうが好まれる。
「まぁ、お前が会うやつはそこそこ厄介だからな。」
「国会議員の義理の息子っていうことだからですね。外堀を埋めればいいんですよ。若槻さんから教わりましたから。」
若槻は常に何処か外堀を埋めてしまうのだ。近くに知る人物をどうやってかはわからないが、探りあてるのだから刑事というのはわからないのだ。そういう益子も刑事なのだから頭が上がらない部分もあるのも確かだ。益子は間瀬の言葉を聞いて出て行った。外は晴れやかなのは空の色がそうであるからだと思っている。車に乗るのもおっくうなので電車で行くことにした。榎並がいる支店まではそう遠くない。コピーされたデータを眺めた。
「どうやって詐欺師に会うんだよ。普通の行員がよ。」
小さな声で言った。窓に映るのは変わらぬ真っ黒な景色だった。そこは張り付けられた広告がある。新しい店ができたり、週刊誌の見出しも垂れ下がっていたりもする。電車に乗る度に思うのはみな携帯へと熱い視線を向けていて一向に目の前に対して興味がないのだ。目的の駅に着いたので降りた。地下からだったので明るい陽射しがまぶしかった。榎並に会う前にちょっとした喫茶店が目について入ることにした。入ってみるといわゆる純喫茶という感じだった。
「此処に榎並っていう人は来ませんか?」
「来ますよ。ガタイのいい兄ちゃんや柄の悪い兄ちゃんをよく連れてきては契約をしてくれって頭下げてるよ。クレジットカードの契約のノルマが達成できそうにないといってはね。」
「そうですか。」
「榎並っていう人はここらあたりじゃ評判が悪いよ。会社じゃどうか知らんがね。脅すようにしてくるのが当たり前でね。他に立派な行員はいるってね。」
益子の問いかけにマスターは淡々と答えてくれた。嘘偽りのない真実だろう。榎並が連れてきては契約を取っているのだろうから。
「契約を取ってもらっては金を出していたよ。けど、もらっているのも見たことあるから。」




