決断の色
「おかみさんの料理は変わらないね。」
「そんなに褒めたところで何もないがね。人も料理も何かに影響されないと変わりっこないよ。腕を磨けば余計にね。」
ドアがガラガラと音が鳴った。後ろを振り返ると武田だった。残業が発生したのだろう。少し疲れた顔をしていた。若槻の隣の席に着いた。武田には生ビールが出された。
「遅かったな。」
「まぁ、予定調和っていうのは狂うものなんだよ。榎並がお得意先を怒らせたらしいって聞いてね。頭取が出向いての謝罪をしないと収まらない羽目になってな。榎並をどうするかっていう会議を行って遅くなったんだ。」
榎並の態度は落ち込んだ様子もなく、わけなど知らずか落ち込んでいる奴を励ましていたのだという。その次いでに話し始めたのは榎並の就活をしていたころの話だ。銀行しか受けていなかったのだというのだ。メガバンクにも入れずふらふらしていたのだという。父親が行員だったこともあってか信用金庫などには目もくれなかった。メガバンクの1社で面接を受ける時に失態を犯していることが響いたのだともいわれている。それが何故、桜銀行なのかと思ってしまった。武田によると父親が採用担当に駆け寄ったらしい。何度もそれを行って面接は形ばかりになってしまった。それもあってなのだろうと思った。父親の監視が行き届かなくなった時には遅かった。
「後ろには国会議員がいるだろう。頭取もどうしようかといってね。信頼業務なのに全てをぶち壊すんだからな。面接をした奴にまで発展させようとしていたからそれは可笑しいっていってね。時間がかかりそうだよ。皮肉だよな。」
「それでデータは?」
「あるよ。」
武田は鞄からUSBを取り出した。此処には榎並からクレジットカードを契約した人間が分かるのだ。
「2人とも大変ね。大学生の時ははしゃいでいた時もあったのも懐かしい話でしょ。そんなことも糧にしてとか言うのは簡単なのよね。その子のお父さんが悪かったのかもしれないわね。手を出してしまったから。・・・でもわからなくもないのよね。大変な思いをしていると手助けをしたくなるのもね。」
「そうだよな。」
その父親はもうすぐで定年なんだそうだ。会社から噂を聞いているから会社に引き留めてほしいなどはいっていない。むしろ、やめさせてほしいと願い打っているのだ。会議がある時に乗り込んでくるほどの思いを抱えている。自分の犯したことをわからず謝ることなく落ち込まなかったことも影響したのだろう。




