変化
若槻は警視庁から少し外れた場所についた。此処には大学の時によく来たのだ。安い店にあふれているからだ。近くには商店街があったりするのに加えて大学が密集している地域としても有名だった。そこの商店街から少し路地に入ると繁華街があるので、大学生の時はチェーン店で働かず個人店の店でバイトをした。そういうお店は店によって違うが、働いた店はマニュアルは形ばかりであとは客に合わせるといったものだった。常連客の好きな酒くらいは出せと言われた。それに慣れれば楽しいものだった。話では最近リニューアルを行ったらしい。古びた感じから和モダンになったのだという。ただ暖簾だけは残っているので目印になる。引き戸を開けると威勢のいい声が響いた。
「おかみさん、武田が来るから。」
おかみさんはせっせと暖簾を片づけた。告げる時はあまり客に入ってほしくないのだ。入口近くのカウンターに座るとサワーが出てきた。
「武田君が来るってことは借り貸しの話?」
「まぁ、それも含まれているから1本頼むよ。」
1本というのは安いワインをキープするということだ。武田も此処で働いていたこともあるのでよく知った話だ。バイトをしていた恩義でワインを仕入れ値を払えばいい。小銭を出した。
「確かに。・・・若槻君はあれか。事件のことで行ったんだね。ニュースで取り上げられている事件なのかい・」
「そうだよ。リーチとかいうサイトの管理人が殺されたという事件、新聞もマスコミも喜んでいるよ。自殺した人を容疑者にしてさ、全く違った答えを出そうとしているんだから。いずれ誰かが責任を取る羽目になる。たぶん、主犯格だな。」
「刑事部長になったといっていた子かい。確かにあの子も此処に来ていたけど、腕もなけりゃオーラもないような子だったよ。権力を持てばこんな店かと思ってこなくなるような子だものね。」
おかみさんは客の腕やオーラを感じることがあるのだという。目に見えないものだからこそ、そんな人の言い分に逆らうつもりなんてない。陥れるような人の目は何処か死んでいたりするのだといっていた。誰かを思い自分に追いやってしまう人はぼーっと考えこんでいるのだといってもいた。若槻はどれに当てはなるのかを聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちが入り混じっていた。大学生のころから見ているのだ。変わった部分もあるのかもしれないからだ。出されたサワーと突き出しを食べた。突き出しの味は変わっていなかった。




