認知と知名度
益子は捜査一課へと戻った。狭い部屋ごときに怯えていた時とはまるっきり違う。若槻がのんきにコーヒーを飲んでいた。
「益子、生稲に会ったら励ましておけよ。一応は此処にいられるだろうからな。週刊誌の名前さえわかれば記者だって飛び出てくるからな。」
「そうですか。有難うございます。」
「お前に感謝されるんだからな。それで金石の様子を見ていたんだろう。」
金石は明星のオーナー兼ホストとして活躍をしていた。尾崎の口車に乗るほど金を隠そうとしていた意思があった。脱税に加担してしまうほどだ。
「尾崎に乗ったとは言ってました。隠し口座は海外と国内の銀行とあるといってしました。金を牛耳っていたのは尾崎でカードも全てもっていたようです。」
「これで狙われた理由が分かっただろう。パソコンに履歴が残っていないか探らせろよ。まぁ、間瀬が良かったら探れ。」
銀行の特定にはパソコンが役に立つのだ。今やネットバンキングとかいわれている時代なのだから、この上なく探るのが楽になった。間瀬は聞くなりパソコンをカタカタと鳴らしている。鵜坂を呼ぶにしてもパソコンなので探っているのか探らせているのかもわかりかねない。ただ頼まれてうれしそうにしているのは態度でわかる。
「国内の銀行が分かりました。桜銀行です。」
「今から頼めるところだな。益子、ついてこい。」
カジュアルな服さえも何処かスーツを着てるほどの高級感を漂わせるときがあるのだから驚きだ。若槻はすぐに出て行った。それを追いかけるようにしていく。警視庁を出るとすぐに車に乗り込むことなく、歩道を歩いている。
「いったい何処に向かっているんですか?」
「何処って、桜銀行だよ。俺の顔の聞く奴が働いているんだ。毎回事件とかがあると頼むんだよ。まぁ、動くのも早いからな。」
本店に行くようだ。そこに行ったとして会えるかなどわかりないはずだ。緊迫したような状況でも緊迫させてしまうのだから怖がるのもわかるような気がする。益子は隣で学んでいるのだからとよく言われるのだ。徒歩で行ったとしても運動にしか思わないのだろう。つくと躊躇することなく、ずかずかと歩いている。受付の女性がじっと見つめている。
「専務を呼んでいただけますか?」
「専務ですか。はい。お呼びいたします。」
受付の女性はどちら様とも問うことはなかった。銀行内で浸透している証を見せられているようである。銀行というのはそれくらいかかわるがあるとも認識させられる。




