本音が上がる
「脱税なら返しようがあるが、殺した場合には何をもって返すってなるんだって刑事になった時に最初に教えてもらいましたよ。」
「俺とはかなり違いますな。こいつがすごいいい上司の元で育って此処に来てくれたのならそれは腕がいいに決まってるわな。」
今の上司に当たる人物がえらく考え深そうにしている。彼にもきっと刑事なれたはずだと思った。捜査一課で動きや指示がない限り動かないうえに指示ばかりに従ってなんの足しにならない。下手に動かれるよりはよっぽどいいのだろうが、駒ほど動きが困る。
「俺は刑事になりたてっていうのもあってよく怒られてましたよ。怠るなって。それも相棒が若槻さんだってんで余計にかもしれないですね。リーチの時も引き下がらなかったんですよ。管理官にも抵抗したほどです。受けた代償ってのは案外大きくなかったように思えたんです。」
心強くなった彼を眺めた。部下にいたころは此処までではなく、いつも何処かおろおろしていた。動きもたどたどしかったほどだ。それが責任というものを体感したことによって何倍も増えたのだろう。制服警官になってもだ。今の上司からすれば事件が1度担当する管内で起きたときに刑事を怒鳴ったことがあったらしい。最初は相手にしてもらえなかったが、若槻の元部下だと知れ渡り、相手にしてもらったのだという。
「若槻さんには感謝しますよ。制服警官でも相手にしてもらえるのはなかなかないですからね。事件に口出しを許されたのは俺だけです。」
誇らしげに胸を張っていた。彼もきっと対等になるように抵抗はしただろう。黙って従えなどとは教えなかったからだ。懲りたのはきっと刑事たちのほうだと思った。若槻自身、そんな制服警官が嫌だと思ったが作り上げたのは自分でもあるとも思った。
「それに刑事の時にえらく行動を教えてもらっているせいか、他の刑事より出来が良かったんですよ。別の所轄の刑事が刑事にならないかって声をかけてきたらしいが、こいつ平然と断ってやがる。いい地位にいるもんだ。」
「俺がそうしろと教えたんですよ。得意なことを伸ばした時に不得意がえらく見えなくなるって。代償を受けてでも守るものはエゴじゃないってのもあるんで、家族を守ってるんでしょうよ。刑事よりは融通が利くし。」
「家族に言われたんですよ。刑事はこりごりだって。」
全てを吹き飛ばすほどの笑みが広がった。刑事はこりごりは若槻の本音だった。権力に引き下がるほど愚かな組織はないと思った。




