空気とタイミング
若槻は路地を歩いて行った。町は凝った作りをしているようにしか思えなかった。迷路のように奇抜ではないが、迷ったら最後などという町ができてもおかしくない。くだらないことを思っても吐くことはとてもできない。今の若者はSNSというものを使って自分を見せびらかす道具として扱っているらしいが、そこには共感などを巻き起こしたいという思いも隠されているという話だ。だが、それを利用していじめが起きているのだ。止めることができないらしい。何かに怯えていた時期もあった気がする。恐れていたこともあった気がする。全てがあいまいになってしまうのはよくないのはわかり切っている。交番に立っている警察官も殺される事件が起きたこともあって不安がっている話を耳にする。交差点の近くでパトロールを終えたのか自転車から降りてきた決まった制服を着こなしている。彼は近づいて行った。
「どうだ?」
「若槻さん、久しぶりです。」
以前は若槻と同じ課にいたのだが、降格させられて今此処にいるのだ。それもリーチというサイトがかかわっている。
「お前は刑事してるより肌に合ってるだろう。」
「さすがですね。その通りですよ。だから、上司から試験を受けろって声はかけられますけど無視しているんですよ。このご時世、地位じゃないってあの事件で真底思いました。」
「そうか。それならいいや。」
若槻がくるぶしを翻して別の方向へと足を向けたら声をかけられた。
「若槻さん、寄って行ってくださいよ。」
「そうですよ。事件が起きたらすぐに飛び出せますよ。」
追い風のように早口で言われるので交番に入った。掃除が行き届いているからかきれいにされている。ぴかぴかすぎて新品なのではないかと思ってしまうものもあるほどだ。向かい合う形で事務で使うような机の椅子に座った。
「若槻さんって今、かなり大変じゃないんですか?」
「それ、俺も聞きました。警視庁にいる仲のいい鑑識が言っていたんですけど、殺された尾崎ってリーチの管理人かつ明星という名のホストクラブの脱税の首謀者じゃないかって言ってました。」
「脱税に関しては二課の連中に聞かないと何とも言えないけどな。まぁ、リーチの管理人は事実だ。強盗を働こうとしたのもあるほどだ。まぁ、ろくな奴じゃないんだけどな。もっといけないのが殺した奴だ。」
若槻は最後の語尾を強めた。それを聞いて2人は神妙そうな顔をしてうなずいた。それだけで空気が変わったように感じた。




