年季と天気
今は音沙汰ないわけじゃないが、少しばかり静かだと感じてしまう。
「喧嘩があったんですか?」
「はい、昔ですがね。不良グループがたまに来ていたんですよ。飲むのはいいですけど、暴れたりするんで・・・。警察を及び建てしていたんです。ふがいないですがね。」
父親は根っからも職人というような不愛想に見えるが垣間見えるやさしさがにじみ出ている。無口なのもあるのだろう。益子はよくしゃべるというわけではない。父親に似たのかと思う。血にまみれる時もあったのだとつぶやくように言った。母親はうろうろとしている。落ち着きがないのではなく、客のために対応しているそぶりだけではないのが計り知れる。
「警察にお世話になるお客さんが多くなったので、警察に来てもらうようにして不良グループのたまり場のようにならなくなったんです。孝人が警察に入ったこともあったんです。」
「いろいろあるものですね。」
「こんな商売、すぐに上がったり下がったりしますよ。SNSやら言うものを扱う若者が多くてそれを誘い出す店も出ているじゃないですか。そんなのわからないから常連に任せてます。」
照れ臭そうに笑っている。カウンターからは少し高くて見えないが夕方の仕込みを始めているのだろう。手を止めないあたりが長年の腕を信じている。母親は隣の椅子に座った。
「客寄せパンダはうちには似合わないって継ぐ息子に言っているんです。だから、少し高い和食の店とか行っているって教えてもらったんです。まぁ、うちの金じゃ頻繁に行けませんね。」
専門学校を出てから一つの店にこだわらずに点々としているらしい。気が向いたら継ぐっていうのが決まり文句らしく、両親はやきもきしている状態なのだと打ち明けた。腕を磨くのはいいが、いい加減にしてほしいものだと感じているのだろう。
「孝人はもう一人前になったのに、弟はまだ半人前ですよ。うちを継ぐために修行するのはいいけれど、年もあるし早く受け継げるうちは受け継ぎたいのが本音ですよ。けど、本人がその気じゃないから困ったものです。若槻さんはどうでした?」
「俺のうちは特別何かっていうのはなかったですね。警察に入った時は喜んでましたけど、実家もろくにかえっていないんで・・・。」
「それはいけないわよ。かえって上げないと・・・。」
空になったワンプレートの皿を差し出した。ランチならお金を払うのが、あまりものだからと毎回払わしてもらえないのだ。息子を頼むと告げられるだけだ。




