職す
「君はいったいいつから変わったんだろうね。」
週刊誌の記者を見送った後の背を眺めながら言った。マスター自身、脱サラをしてまで喫茶店を開いたのは夢を語ったときの上司の笑みだったという。できっこないと決まりきった文句を受けたからだ。実際にやってしまえばぐうの音が出なかったらしい。
「俺は純粋でしたよ。入ったときは。けど、痛い目を受けたからには返さないとね。」
「そんなものなのかな。まぁ、事件は解決しないとね。」
「わかってる。マスター、また来るよ。」
記者のコーヒーの代金を含めて払った。若槻の目は輝いているというよりは鈍い光を持っている。マスターが言っていたこってない喫茶店は水物だというのはあっているようだ。若槻の後に入ってくるものはいない。ついでに若槻は近くにある居酒屋をのぞいた。そこはランチをしている。こともあって、開いているのを知っている。年季の感じる暖簾をくぐった。
「いらっしゃい。・・・ランチは終わってしまってさ。」
「いいんですよ。話を聞きに来ただけですから。」
顔を見たときの驚いた表情をした。
「若槻さんじゃないか。事件、解決したんですか?」
「まだです。益子もしっかり動いているので、野暮用で近くを来たので顔を見に来た位です。」
カウンターに座った。手際よく、水を出してくれた。残り物だろうかワンプレートにして出してくれた。
「うちの馬鹿息子がよくやってますか?」
「えぇ、最初に思った以上ですよ。地方に行っていたのは学ぶためだったんでしょう。いい物を持ってますよ。」
「そういっていただけるとうれしい限りです。孝人は子供のころから変わっていたんですよ。弟のほうは料理にずっと興味があったみたいで料理人になったんですけど、孝人はお客に遊んでもらうことが多かったせいか警察って言ううちの家計にはかけ離れた職に就いたので・・・。」
若槻は出されたメインの入り混じったプレートに箸を伸ばした。
「それは仕方がないことだろう。よく、ここで喧嘩があったんだからな。それを見てりゃ不思議じゃない。いや、否が応でも見ちまうだろうが・・・。」
「そうかしら。」
夫婦ともどもでやってきたことを見せられている。不景気だと言い切ってしまう世の中も見たのだろう。世の中に飲まれながら見てきた世界というのははるかに広くもまた狭くも感じてしまうのだろうから。それすらも跳ね返すこともできたのだろうから。淡々と聞きながら考え深くも思ってしまった。それくらいの月日を経ているのを忘れてしまうのだ。




