薄れていく世界
慌ててかけていく二課の奴の後ろ姿をほほえましそうに若槻は眺めていた。明星が落ちたといった。金石信二が全てを吐いたのだ。たぶん、若槻の言葉を思い出したのだろう。言い逃れをしても、もし再び現れたら厄介だと思ったとしか思えない。
「明星が落ちたのはいいことですね。」
「尾崎のことをみっちり聞くことができるんだからな。尾崎のことを言ってしまうとばれるだなんて思っていただろうが、全て言ってしまえば少しすっきりするものだ。」
満足気にしている。椅子を心行くまでくるくると回転させている。間瀬に任せていることもある。益子はつまらないとは思ったことはなかった。所轄にいたときは思った時があっただろう。事件が起こる度に最前線に動くことが決まっていたため、不愉快だが、事件が起きればいいとかすかに思った。今、若槻にぼやいたとしても大して相手にしてくれない。それくらいなのだ。若槻は再び気が済んだのか眠り始めた。
「若槻さんが寝ている姿を見るのなんて珍しいことなんてないけどな。落ち着いている感じがしていいんだよ。」
「そうですね。」
わけもなく入って来たわけじゃないのだと益子は入って来た時の自分に言い聞かせることができるだろう。警視庁にいれば噂なんざ大量に存在する。恐れるななんて教えてくるわけではない。自分の行動に自信を持つように向きを変えていくだけなのだ。顔を出してくる他の課の人達は顔を出しがてら必ず事件について言ってくるのだ。それほどの信頼を得ている若槻なのだ。若槻のかすかに聞こえるいびきを聞いた。
「あの人もさ、週刊誌の記者と提携する人じゃなかったらしいんだよ。けど、刑事部長の件があったし、俺の事情も知っているから動いてくれる記者を1人じゃ心配だからって全員と顔見知りだってさ。」
沈黙に包まれている中にある声が響き渡る。間瀬のパソコンの音だけでも落ち着くようになった。
「それほど心配なんですね。部下思いっていうか、真実を知った人が蹴落とされるのが納得いかないんですね。」
「それが本心だよ。だけど、大きな声では言えるような人じゃないから遠回しで言ったりするんだ。今、仲良くしている人はたぶん該当する人間だってこと。腕だけじゃなくて・・・。」
「全てを認めているってことですか?」
間瀬が言っている途中に益子が割って入ったが、言葉を聞いてうなずいた。益子はコーヒーを飲んだ。うまみが増したような気がした。窓を見ても空は映っていなかった。




