書き換えという名の不正
「やっぱり、此処のコーヒーは違いますね。」
「なんせインスタントででっち上げたのを持ち寄っただけだからな。それに此処には妙にコーヒーにこだわった奴なんていない分だろうな。自分勝手に味を変えたがるからだよ。」
コーヒーを入れるコップはなくともコーヒーのインスタントの瓶は3本置かれている。こだわりがない割には何かのこだわりを感じさせる置き方となっているのだ。散らばっているようで何処か整った雰囲気を見る度に何処かによりどころを感じてしまう。鵜坂は飲み干したコーヒーカップを持った。
「おいていけばいい。つまらなくなったらいつでも此処にくればいい。間瀬は必ずいるから。」
「知ってますよ。捜査一課の一部しか使っていないのに妙なオーラをまとっていることもです。それに此処に来ると落ち着くんですよ。追われているはずなのに何処かで追われていない感じがして・・・。」
「俺が下手に言わないからじゃないのか。勝手に情報を集めてくれれば俺は構わない。尻を叩いてまで動かすなんてのはどうも性に合わない。」
一定の空気に感じるのは、凛とした空気だけでぴりついた感じは全くない。鵜坂は毎回、間瀬がうらやましい。間瀬はデータを扱う部署にいたときよりも表情が穏やかになった。切り詰めたような殺気を感じさせるような感じはない。嫌がり抜け出せたこともよかったのだろう。鵜坂はわかっている。リーチの昔の事件の時にすでに気づいていたことを上司に伝えたが、相手にされることはなかった。むしろ、邪魔ものとして扱われるようになりぬれぎぬを着せられて今に至る。鵜坂の目はにらみ切った目をしていたと思った。それが此処に来て認められていることが分かると笑顔を見せるようになったのだ。
「鵜坂、またいいことわかったら教えてくれよ。」
「わかりました。」
すがすがしい気持ちになって戻った。コーヒーカップを置いてきたのは、新しいことが分かったら伝えるといっているのと同じ。ハローバルのデータと引き換えにすることなどない。鵜坂にとってはあの部署とかかわっていることだけで誇りなのだ。部署に戻る度に横暴な上司による監視がついているも同然だ。上司といっても形ばかりでデータの知識などこれっぽちもない。それなのに全てできるとまで割り切れてしまうのが嫌いだ。データの知識を入れようともしない。出世目当てのための人だということだ。
「鵜坂、捜査一課から見てほしいデータがあるってさ。」
「なんのデータだ?」
同期が心なしか声を張っていなかった。
「検察庁がもっていたデータを探れって。書き換えがないか見てほしいってさ。」
楽な仕事だった。




