鉄とは
「お前は所轄の時から変わらないよな。」
「人っていうのはそんな簡単に変わらないよ。まぁ、権力が人を変えるとか言われるけど。」
ぼっとしている時間が益子にとってはいい息抜きだということを若槻は理解している。だから、小言を言うこともない。むしろ、大切ならしろと言われているように放っておかれるときもある。今の事件は厄介だということもわかっている。
「益子、此処にいたのか?捜査一課のお荷物さんとおしゃべりかい。まぁ、済んでから来いよ。鑑識で調べものが出てきてるから。足跡はダメだけどね。」
若槻が冷めた目を生稲に向けていた。きっと捜査一課の上司が伝えたのだろう。下手にいえないことを何故か若槻にいうのだ。それも同じ年代であるほど伝えたがっているのだと。若槻は益子に対しては笑顔を見せている。鑑識に直接来いといわれるのは珍しいことじゃない。片桐の手間を少しでも減らすためという思いがある。鑑識にも仕事が積もるから。益子は若槻の背中を見た。
「お前って捜査一課のお荷物だってさ、言われてるな。所轄にいたときのほうがよっぽどよかったんじゃないのか?なんてな。じゃあ俺は呼ばれてるから。」
立ち去ろうとしたとき、生稲から呼び止められた。寂しそうな悲しそうな泣き出しそうな表情が混ざっていた。
「俺はそう言われているのか。」
「まぁ、本人目の前じゃあ言わないけど、そういっている人もいるくらいだよ。思い違いだったとかいう人もいるらしい。だから、幹部とかは難しいかもよ。それか扱いは刑事部長みたいな感じかな。」
彼は言い捨てるようにわざと後ろを振り返らなかった。現実を知ってほしかったのだ。所轄の時からの仲だからこそ誰かが鉄槌を打たないと気づかないのはいけないと思った。説教したところできっと聞かないことを知っていたから。所轄の時は持ち上げられてきたために現実から逃げたのではと思った。益子は鑑識の部屋へといった。そこには間瀬と若槻が立っていた。
「荷物さんとの会話は済んだか?」
「はい。若槻さんのおかげで言えなかったことを言えた気がします。」
「そりゃ買いかぶりすぎだ。本人が現実を見れなかったことが全てだ。それか周りが持ち上げて過ぎた結果かもしれないな。」
若槻の不敵な笑みを見せた。それを見ていた遠藤は少し混ざりたそうな顔をしていた。片桐が2人のそばにいなかったので全て出来上がっていないことを知った。
「若槻も偉い悪徳になったね。」
「いいんですよ。俺はこんなちっぽけな部署がお似合いだって知ってますから。」




