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叫騒の歌  作者: 実嵐
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1人の時と歌

「それであんたは悪気もない顔して今までしていると思ったら親御さんはなんて思うかなんて考えたことなかっただろう。」

安藤のことを気になったのは学生のころに運動部に所属していて国体に出たりするほどの人間が全く縁のない部の顧問をし、活動もしているかわからないといったところに不思議に思ってしまった。悪事のために時間を割くくらいなら部活動に力を注ぐ顧問になったほうがよっぽどよかったのではなかったのかと。

「ばちが当たったとしか思っていません。高校に入った当時はまだ成績もよかったんです。国立とか県立とかも余裕に目指せるくらいだったのに、2年になるとどんどん落ちて行って最後は2流の大学に行きました。そこからはもっぱらバイトといって暴力団にのめりこんでいったんです。」

「あんたの頭の良さを利用していたんじゃないのか。暴力団といっても今や頭脳戦だ。何処かで詳しい人間が欲しかったんだろうな。生徒に謝るくらいのことをしないと見本にもなっていないんだからな。」

若槻は講演会が始まったのか漏れた声のほうへと足を向けて行った。そのあとに部下であろう人物が追いかけるようにしている。準備ができているということなのだろう。手順も見ていなかったのだ。取り残された武田は少し笑った。

「何が面白いんですか?」

「いや、俺は若槻の高校の時とか知っているから変わったなと思って。・・・あいつ、苦労人なんですよ。自分から言うことなんてないといってしゃべらないんですけどね。」

武田は彼ならわかるものがあるだろうと思った。教育に携わったのだ。少なからずは。それも伊達な気持ちでやれない職業であることもニュースでわかっているから。

「弟がいて生まれたときはうれしかったと思うんですよ。けど、弟が病気になってから親は弟に突っ切りになってしまって若槻のほうに振り向かなくなって、親戚に育てられたんです。それから全く会っていないんです。」

「よく知っているんですね。・・・比べて俺は生徒よりも自分ばかりに焼けになって目を向けていたのかもしれないです。」

相談事があったとしてもきっと声をかけてきたとしても乗るふりをして受け答えもうやむやにするときが多かったが、それでも慕ってくれた生徒がいた。忘れかけていたものがあふれ出てくるようだった。彼の眼には涙がこぼれていた。彼にもきっと救いの手が差し伸べられた時があったのだろうが、見失ってしまった故の結末なのだろうから。

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