始まりの歌
講演会が始めるためか人が徐々に少なくなっていった。むしろ、このタイミングしかないと思った。人を強引に探す手間が省けるのだ。講演会は生徒が強制的に聞かされてしまうので毎回初日にするのが決まりだからと聞いていた。教員が一番暇なのも聞いている。ふらついているラフな格好を見つけた。
「安藤先生ですね。少しいいですか?」
「構いませんよ。生徒たちは講演会に行くので暇になりますし、時間的にも2時間を予測していただければいいですから。」
ステージのすっからかんになった観客のいた場所に向かった。講演会の進みもわかるのでちょうどいい。武田は雰囲気を見て抜けようとしたが。若槻はそんなことをしなくてもいいといった。かしこまるような会話をするつもりなんてみじんもない。
「いろいろ調べたら貴方のことが詳しく分かったんでお聞きしたいだけなんですよ。」
「だから、なんですか?」
「暴力団に所属していますよね。それも榎並がかかわっている暴力団に。詐欺師として動いていることもわかりました。」
若槻が言うのは本当だろうが、それにしてもこんな新人で生真面目そうな人が詐欺師として動いているのか不思議でかなわなかった。人は見た目じゃないとよく聞くが典型だとも思ってしまう。さらに、今の時代、反社会的な組織すらも判断がつかなくなってしまっている。
「そうです。若槻さんには何時か言われると思っていました。うちの幹部に言われたんです。警視庁捜査一課のあまり表舞台に上がらない人がいてそれもうでもいいのに引き下がった刑事がいると。その刑事に捕まったら解決するまで終わらない。それが貴方だったんです。若槻純太さん。」
「俺はあきらめが悪いというよりかは事件を放ってなかったことにするのが嫌なんですよ。榎並邦彦とかかわりがあった刑事部長は解雇されたと聞かされましたがね。」
警視庁に味方がいないことが分かったのか安藤は観念したような顔をした。何故、暴力団に含まれて詐欺師として働いているのか。若槻にはひも解くのに時間がかからないのだろう。少し疲れた顔を見せた安藤がしゃべりだした。
「俺が高校の時にバイトも手が出せないほどの進学校に通っていたんです。当時はやったものを親の許可を得ずに買いたかった。その時に俺の中学校の同級生がいい金になるバイトを知っていると教えてくれた。短時間で多額を得ることができるといわれて乗ったんです。それで行った仕事が受け子でした。俺にとってはギャンブルをしているような気分になったんです。」




