現実と非現実
武田には姉がいたが大学で行ったきりという感じでなかなか実家に寄りつかなかったうえに大学院まで言ったとすれば武田に期待なんてないのがまるわかりだったのだ。そのこともあってか武田と姉の関係はよくなかった。今じゃあ武田の姉は研究者になりかけたが、上には上がいるのでやめてしまったらしい。会社員として働きだしたのだ。
「姉貴はさ、研究者になりたかったって嘆いているらしいんだけど、俺は知らないとしか言わないからな。仕事の相談なんて言われないし、相手にしてないよ。俺の立場が専務だって聞いてさ、今更ゴマをすってるのって嫌気がさすから。」
会社の立場をよく知ってかでゴマをすりだしているのだ。大学院まで行ったとするプライドはあるのだろうから。会社の中の扱いはもっぱらペーペーと同じなのだという。一種の常識からかけ離れているところもあってか会社じゃあ邪魔もの扱いを受けているのだ。それ聞いた武田の母親は怒鳴りこみそうになったのを彼が止めたのだ。もう口出しをする立場じゃないかって。父親は仕事ばかりの人間で家庭に顧みなかった人だったのは今も変わらない。会社に入る前に受けたであろうビジネスマナーすら抜け落ちている始末だ。手に負えないに決まっている。
「それじゃあずっとお姉さんに会ってないんだね。」
「会うとしたら親父やおふくろが死んだときくらいさ。遺産がどうだのって口うるさく言うに決まっている。割合すらわかっていないんだから黙っていりゃいいのに余計な口出しをするんだよ。研究者としては立派になるつもりだっただろうが、社会に出てそのままじゃ困りものだよ。親戚も困っているって言ってさ。」
親戚の家にいった時に聞かされたのだ。図々しく家に入り込んだ癖に質が悪いのは此処が悪いだの言っていなくなったのだ。そのことで気分を害したと母親に電話してきたという。それに対して母親は謝るしかなかったのだが、電話を切ると親戚が悪いのだととたんに母親は姉の擁護を言い始めた。大学院まで行ったことが誇りだったのを覆すような言い方をされたのだろう。
「姉貴には一人前のプライドと反比例するかのようにある社会としての常識が釣り合っていないから困っているんだ。俺もそこまで姉貴との関係が深かったわけじゃないからどうにも言えないからさ。」
家の中では姉と比べられてうんざりしていた。それでも社会に出て姉に勝ったと思うようになった。ちやほやされた痛手だというのだ。




