手の内
「確か、上原さんって所轄の刑事じゃなかったんですか?」
「はい、腕もよかったんですよ。検挙率もいい人でしたから。部下にもなんだかんだ言われても慕われていましたから。下手なことやれなかったんじゃないんですか。それもあって、警視庁に駆り出さることが多かったみたいです。」
「腕もよければ余計に切りたがらないのが上の性ですよね。自分の地位のために生き残れそうな奴はいい恰好をするものですから。」
警備員の彼はうなずいていた。それは組織というくくりにはめらているのだろうから。若槻には痛いほどの言葉はかけられない。上原を恐れていた連中はいただろう。だが、警視庁の管内においても大きな話にならなかったとすると・・・。
「上原さんの捜索ってされたんですか?」
「ろくにされませんでしたよ。事件にかかわったんじゃないかって口出しをしたんですけど、全くもってなびかないものですよ。形ばかりの処理です。今思えば上のほうに圧力がかけられていたんですかね。」
「かかっていますよ。聞いたんですよ。捜査一課の人が榎並邦彦の元秘書が上原夫妻を殺したと証言したそうです。・・・俺たちは圧力をかけられない方法を知っていますから、大丈夫です。」
警備員はほっとした顔を見せて一礼をして去っていった。若槻ははっきりと榎並邦彦の元秘書が自供したといったのはよかったのだろうか。益子には不思議と思ってしまう。もし聞かれていたらと感じてしまう。
「若槻さん、さっきの話を聞かれていたら・・・。」
「聞いたと思うよ。榎並邦彦の車が止まったのも確認済みだから。」
「それじゃあ手のうちを見せたようなものじゃないですか。」
益子は生稲の訴えることもわかっていたのだ。できるだけ手のうちを見せずにやるほうがいいのだと思っている。
「見せたほうがいい相手がいるんだよ。プライドに染まり、権力に頼り、うぬぼれている人間が嫌うのはプライドを傷がつかないことであるんだ。少しだけの手のうちを見せるのが筋ってものだ。アドリブを苦手とするのは国会であやふやな回答をしているのをかなり知っている。」
最近の国会の動向を見ていたのだろう。アドリブを苦手とするのだ。それなら決まりきった秘書の所為とする手を早めに消したことになる。そうなると秘書はあらゆる方法をして助け船を出すのだろうか。
「秘書は表ざたにしたかったみたいだから。無視をすると思うよ。裏切り続けた意味を知るのは秘書くらいだろ。」




