口と行動
警察が失態をあらわにする形になるのを上は恐れるだろうが、若槻は関係ないと言い切る。間瀬の食べ方は何処か仕事の時と違ってのんびりしている。
「この話は若槻さんにしたんですか?」
「したさ。予想してたんだろうな。明日はお前と管理会社にでも乗り込むとか言ってたな。管理会社も公になっていないことをいいことに調子のいいことを言いきっていたけど、逃げ切れないから付き合ってもらわないと困るな。」
警察を毛嫌いするのもわかるが、事件が起きたのに協力しない姿を見ると怒りが舞い込んでくる。自分が起きたときにもし冤罪であった時に救えるものもなくなってしまう。益子は心から思うのだ。夜も深まっていくうちに客はどんどんいなくなってしまっている。がら空きの状態だ。飲食というのはそういうものなのだ。大きな会社ほど個人情報を抱え込んでいる。扱いの下手なところはよく考えないでやって追い打ちをかけてしまったりする。
「お前のおふくろさんと親父さんは理解が速くて助かるな。」
「そうですか。此処は警視庁に近いんで、俺が小さいときから刑事のたまり場みたいな店だったんですよ。けど、俺が刑事になったと知ってこなくなったといってました。」
「まぁ、身内がいては困るような内容を話すつもりだったのかもな。素人だからどう騒がれても相手にしない覚悟でね。腐った覚悟だよ。」
間瀬は注文した刺身をあてにジュースを飲み干していた。益子はただ間瀬の生き様を見ていたかった。間瀬はデータを扱っていた部署で働いていたのに、ぬれぎぬによって警視庁の小さな部署への移動となったのだ。それもリーチという名のSNSがきっかけだった。それでも多くは語ろうとはしないのだ。以前言われたことがあったのだといっていた。何処かでとやかく言うのは簡単なことだとそこで成果を上げて上を黙らせればいいだけの話と若槻が言ってた時があった。それに従っているまでなのだろう。
「胸を張るっていうのはな、益子。偉そうにするだけが全てじゃないんだよ。責任というものを抱えてもなお誇りに思えるかなんだ。不正をしようが構わないと思っているのは信頼を寄せている人間にとっては裏切り行為なんだよ。信頼を取り戻すにはたくさんの時間と労力が必要なんだよ。その人間がそこまでの回復するために存在することが可能かどうかの話にもなってくる。」
間瀬の話は説教じみているが、益子には正論を言っている人がそばにいるだけでうれしいのだ。ただ食べているだけかもしれないが、それでもかまわないと言い切ってしまえるほどの信頼があった。




