騒がしい日常と非日常
窓から見渡すことができるのは限られているのを知ったのは幼いころだ。自由に飛ぶ鳥に憧れを抱いたときもあったのかもしれない。けど、今はそうじゃない。警視庁という建物の中に吸収されてしまっている。自動販売機の場所で立っていると嫌そうな顔をする連中もいたりするが、感情を揺らしていた時期は過ぎ去ってしまった。缶コーヒーを飲み干して大きな部屋といった。
「益子、どうだ?慣れたか?」
声をかけてきたのは捜査一課の中でもお荷物だといわれているところにいるのだ。性だとかしょうがないとか言っても仕方ないのでやめている。相棒として行動を共にしているのが、若槻純太だ。以前は捜査一課のエースとしてちやほやされていたらしいが、ある事件で無理やり責任を取らされて此処にいるのだという。反発しても無駄だと知っているからあがいているようにも見えないのだ。
「慣れましたけど・・・。事件の大半は捜査一課の連中がもっていってしまうじゃないですか。所轄にいたときのほうが動いてましたよ。」
「そんな愚痴は聞き飽きたよ。お前、酔った時も言うから。俺たちも覚えたって。」
憎たらしく言う言葉は笑みをこぼせるように仕掛けてある。伊達に捜査一課のエースとして活躍していたわけじゃない。パソコンをいじっているのはデータを扱っていた部署にいたのだが、飛ばされてきた間瀬だ。これもまた組織の使いっ走りになっているのだ。益子よりかは時間は長いため、気楽にいる。間瀬は鑑識と仲がいいらしく、捜査一課の連中より情報が速かったりするのが事件を解決に導いている。
「若槻さん、新たな事件が起こりそうな予感がしますよ。」
「お前の予感が当たるんだから嫌なんだよな。何処からその能力をもらってきたんだよ。単純に受け取ることなんて不可能なんだぜ。」
「さぁね、こんなところで仕事しているうちに身についてしまったんでしょうよ。」
憎まれ口を言っても許される環境なのだと改めて思う始末だ。ぶら下がっている看板には何かが書かれていた痕跡はあるが、今じゃ全くといってもいいほど読めない。それは以前からあったという印だ。捜査一課の連中がドタバタとしている。大きな事件の前ブレだ。
「やっぱり、あたりだな。」
間瀬はどや顔をしながら関係ないといわんばかりにコーヒーに手を伸ばしている。捜査一課の連中は言うのはコーヒーを飲んでいるだけだと揶揄するが、事件を解決しているのはもっぱらこの人間だということは知られていない。