2−1話:出逢いは風薫る水辺で
自らのドジであわや、コンクリートに赤い花を咲かせるか、と思われた私は、何故か別の激痛によって無理矢理に目を覚まされた。
頭ではなく、鼻の奥が猛烈に痛い。なるほど、頭をすこぶる強打するとここが痛くなるのね。
ん〜、敢えてこの痛みを例えるなら、水が入った時の様な・・・・
水?!
私は完全に覚醒したと同時に、即座に現状を把握し、パニックに陥った。
これ私溺れてる!?
地面にダイブしたつもりが、何故か水に飛び込んでいた。
そんな不可解さに考えを回す暇が今の私にあるわけが無い。
それに死にたい、という当初の願望も、はからずも果たされているのだが、そんな思いも100年先まで吹っ飛んで、私は助かりたい一心でただひたすらに手足をもがいた。どちらが水面なのかすら掴み得ない。
ぶくぶく。ガボガボ。
永遠に続けるつもりかこの苦しさ!と誰に向けたのかも分からぬ怒りのこもった絶望を気泡と共に吐き出した瞬間、これもまた突然に陽射しの眩しい世界へと解放された。
目まぐるしく変わる状況に思考が付いていけない私は、全身ずぶ濡れのまま口をポカンと開けていた。
私の目には、1人の少年が映っていた。
いや、少年というには背格好がしっかりし過ぎている。
大人になりかけの少年・・・そう言うのが一番しっくりくる、いわば私と年齢の近い男の子に見えた。
けど私が最も目を引かれたのはその容貌の方だ。
豊穣の大地を思わせる黄金色の髪。
朝露に濡れる新緑の様なエメラルドグリーンの瞳。
まるで別世界の人間みたいね、と私はほんわりとしながら思った。
要するにイケメンなのだ。
情けなく口が空いていたのもそのせいだ。
ちなみに黄金色の大地もエメラルドグリーンの新緑も私は一度も見たことは、ない。
「大丈夫?」
と心配そうに声を掛けられたと同時に私は初めて気が付いた。
この人、でかくない?
そういえば私は、この人の手のひらの上にいる。
宇宙人ならまだしも、巨人がいるなんて話は聞いた事がない。
大体今いる場所だってさっきの所と全然違う。
こんな緑豊かな所じゃなくて、、ビルが立ち並ぶ街にいたはず・・・
段々と冷静さを取り戻してきた私は、改めて辺りを見回してみた。
小高い崖からは滝が流れている。滝壺の辺りは浅いプールのように水場が出来ていて、蓮に似た草が花を咲かせている。さらに見渡すとここは森の中らしく、あちらこちらに木漏れ日が差し込んでいる。
滝壺から糸を引いたように流れる小川に、私と彼は立っていた。
「しゃべれないのかな・・・」
彼は少し困った様な顔をしながら、私の小さな頬をつついた。
「あのっ・・・!」
聞きたい事がたくさんあって言うことに詰まってしまった。
ここはどこ?あなたは誰?巨人ってことはやっぱり巨人ファン?
少々混乱しながらも、言葉を探していると彼が助け船を出してくれた。
「僕はアドニス。君は?」
ますます混乱した。
この人の名前はどう転んでも日本人のそれじゃない。
なのに日本語がペラペラなんて、いわゆる外人のオタクってやつかしら。そう考えるとフツーでない格好にも納得出来るわ。
っと、とりあえず・・・
「私は、リサ。カワハラリサ、です」
「リサって言うんだ。・・・で、リサはなんで溺れてたの?」
「わかんない・・・気が付いたら水の中だったし。
だいいち、ここがどこなのかもわかんないもの・・・」
そう口に出すと自然と涙が出てくる。
なんでこんな事に・・・
「ああ、泣かないでよ!・・・・まてよ。もしかして、君は」
思い出した様に彼は言った。
「人間の世界から来たのかな?」
「は?」