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ハロウィン

 涼しさから寒さを強く感じるようになってきた、ある日の昼下がり。

 ルドは、屋敷の庭で日光浴をしながら本を読んでいるクリスを見つけて、駆け寄った。


「師匠! トリック・オア・トリートです!」


「なんだ? 突然」


「異国のお祭りです。お菓子か、いたずらか、選んでくだ……」


「ほれ」


 クリスがどこから出した飴をルドに渡す。


「これでいいか?」


 ルドは呆気にとられながら飴を眺めた。そして、口に入れると飴を噛み砕いて飲み込んだ。


「トリック・オア・トリートです!」


「ほれ」


 またしても、クリスがどこからかお菓子を取り出してルドの手にのせた。

 それも一口で食べたルドは、また先ほどと同じように言った。


「トリック・オア・トリートです!」


「ほれ」


 クリスがお菓子を取り出して渡す。これを十数回ほど繰り返したところで、ルドが根を上げた。


「なんで、そんなにたくさんお菓子を持っているのですか!?」


「子どもたちが言ってきそうだったからな。念のために、大量にお菓子を買っておいた」


「それじゃあ、始めからお菓子しか選択肢がなかったんじゃないですか」


 ルドが力なく芝生の上に座り込む。


「あーあ、師匠がどんな、いたずらをするか楽しみだったのに……」


 ボソッとルドが呟く。その内容にクリスは首を傾げた。


「私がいたずらをするのか?」


 クリスの疑問にルドも首を傾げる。


「お菓子がなかったら、師匠が自分にいたずらをするんじゃないんですか?」


「いや、そこは『お菓子をくれなかったら、いたずらするぞ』だから、私が菓子を渡さなかったら、おまえが私にいたずらをするんだぞ」


「そうだったんですか!?」


「勘違いしていたな?」


「はい……なんだ、師匠にいたずらしてもらえるんじゃないのか」


 ルドが悲しげな雰囲気になって俯く。ないはずの犬耳がペタリとなり、尻尾が垂れ下がっている幻が見える。


 クリスは呆れたように言った。


「なんだ、おまえ。いたずらしてほしかったのか?」


「師匠がどんないたずらをするのか、少し興味があったんです」


 そう言うと、ルドは拗ねたように細長い棒菓子の端を口にくわえた。


「いたずら……か。そうだな……ちょっと、こっち向け」


「はひ?」


 ルドが棒菓子をくわえたまま顔を上げる。すると向かい合うようにクリスの顔があった。

 そのままクリスの顔が迫ってくる。


「はへぇ!?」


 驚いたルドの口から思わず変な声が出た。しかし、クリスは気にすることなく、ルドがくわえている棒菓子の反対側を、パクリと口の中に入れた。そして、そのまま手を使わずにポキッと折った。


 呆然としているルドに、クリスが棒菓子を食べながら言った。


「いたずらしたぞ。これで満足か? そういえば、そろそろ菓子を補充しないと、子どもたちにやる分が足りなくなるな」


 クリスはルドを放置して屋敷へと歩いていった。その途中で、ふと足が止まる。


「もしかして、私はかなり恥ずかしいことをしたのか!?」


 今更ながら我に返ったクリスは、自分の行動を思い出して顔を赤くした後、走って屋敷の中に飛び込んだ。



 一方、残されたルドは……


「鼻! 鼻が、師匠の鼻と触れた!」


 と、自分の鼻の頭を触って悶えていた。



 そして、メイド一同は


「はよ、付き合えや」


 と、嘆きあった。

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