キスの日
キスの日らしいので、即席で書きました
クリスは治療院研究所の自室で、棚の上の方にあるガラス瓶を取ろうとしていた。
「クソッ、あと少し……」
精一杯背伸びしても、あと指先一つ分届かない。こういう時、ルドなら何事もないように取って渡すだろう。
その光景が頭に浮かび、癪にさわる。
「ちょっとばかり背が高いからって、いい気になるなよっと!」
「師匠、頼まれた本は……って、危ない!」
クリスがジャンプして触れた瓶がバランスを崩し、隣の瓶たちまで巻き添えにして落ちてきた。反射的にクリスが床に身を屈める。そこにルドが庇うように全身で覆い被さった。
棚から落ちた瓶がルドの背中に当たり、床に転がる。痛みはあるが、怪我というほどのものでもない。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。おまえのおかげで……」
ルドが腕の中のクリスを覗く。すると、ちょうどクリスも顔を上げたところだった。
ふにゅ。
クリスが顔を真っ赤にして自分のおでこを押さえる。ルドは顔を青くして両手をバタバタと動かした。
「す、すみません! ワザとではないんです! その! たまたま偶然!」
「わ、わかっている! それより頼んでいた本は!?」
「こ、こちらです!」
ルドは投げ出した本を拾ってクリスに差し出した。
※※
「と、いうこともあったなぁ」
クリスは唐突に思い出した記憶を懐かしんでいた。なぜ、今になってこの記憶が蘇ったのか分からない。
今は目前で無防備にソファーで昼寝をしているルドがいた。腹の上には本があり、規則正しく上下している。
その寝顔にクリスのイタズラ心が疼いた。
おでこにかかる赤髪をそっと横に流す。そして、表れた額に唇を寄せた。触れるか、触れないか、ギリギリのところで止める。
「これで、おあいこだ」
クリスが素早く部屋から出ていく。廊下を走る足音が消えた頃、部屋に残されたルドの顔は真っ赤になっていた。




