守護精霊さま、やんごとなき理由によりガン無視いたします。
イラスト:Mickさま ( http://509.mitemin.net/ )
指定ジャンル・必須要素:なし
→→ ジャンル:コメディ
この作品は1,361字となっております。
知らないでいる方が幸せなこともある、とはどなたが言い始めた言葉でしょう。そしてその言葉にこうも納得させられる日が来るとは。
「ソーリョ、ゴハン食べないね? ならお味見お味見……イタッ」
僧侶として修行に修行を重ね、やっとの思いで力を得たのです。何人にも宿りし守護精霊さまをこの目で見止める力、そしてそれは誰の傍にも寄り添う数多の存在を確認することで確信に変わりました。
なのに。
「むぅ、ソーリョはらんぼうモノ!」
なのに。
「行ないにアイが足りないネ」
なのに。
「しかたない、ワタシがしっかり護ってアゲル。その前にお味見……イタッ」
なぜ僧侶である私の守護精霊さまが、異国の、それもこんな食い意地の張った子どもなのでしょうか。
椀を取ろうとする額を狙って虫を払うように叩くと、何の感触もないのに目の前の小さな子どもは痛いと言い。恨めしそうな目を私に向けながら、非難に同調する者を探すように頭上の煌めく輪に触れ。真っ白な翼をはためかせながら守護するはずの人間をどう懲らしめようかと画策する、異国で天使と呼ばれる存在。
その中でも明らかに未熟そうな子どもが私の守護精霊さまとは、私は修行の仕方を間違えたのでしょうか? それともこれは人生最大の試練なのでしょうか?
もしも守護精霊さまにも代えという概念がきくのであれば、どうか、どうか、一刻も早く。
「ねぇ、ソーリョ。本当はワタシのこと見えてるデショウ?」
忍耐が足りぬと見なされたとしてもやむを得ません。しかし、これ以外であればどんな方にでもこの身を任せられますし、何でも耐えられる自信がありますので、どうか、どうか。
「あの日、バッチリ目が合ってビックリしてたの分かってるんダカラ」
そもそもこのような、私の躰の三分の一にも満たないような姿の者に、私が満足に守れるのでしょうか? 異国ではこれが主流でしょうか? たとえそうでもここは日本です、私は日本人です。
「それにしても、そのムスッとしたポーカーフェイス、どうにかならないノ?」
場合によっては人間の子どもの方が知恵がありそうです。このように頬を引っ張って人間に物理的に干渉しようとする守護精霊さまなど、聞いたこともありません。聞きたくもありません。寝ても覚めても、ましてや夢の中にまで出てきて妙ちきりんな踊りを見せてくるような守護精霊さまは、守護精霊さまといえど守護精霊さまの風上に置けない守護精霊さまだと思う訳でして、ですからどうかこれを黙らせてくださいませ……っ!
「でも、ダイジョブ! ワタシが見えるようになったんダカラ、これから楽しいことイッパイ! ソーリョ、思わず笑っチャウ!」
「……笑うか」
「ン? 何か言ったカ?」
椀を手に取り、酒のように一気に煽る。投げるように置いた椀が音を立てて跳ねた。
さも自分のものを奪われたように叫ぶ声にこめかみがひくつく。だが、気にしない。精神を統一させ、心を無にするのだ。どんな修行でもそうして乗り越えてきた。だからこうして力を得たのだ。
守護精霊さまに代えはない。それなら不本意ながらこれに守護の務めは果たしてもらう。しかしそこに慣れ合いなど一切必要ではない。
ゆえに、ここで決意表明といこう。私の「偉大なる守護精霊さま」に敬意を示して。
守護精霊さま、やんごとなき理由によりガン無視いたします。
Mickさま、ありがとうございました。
今まで考えたこともないタイプの内容ということもあり、コメディと言うにもお粗末ですが、他に合うジャンルもなく……。
表紙のような感じで見ていただけたら。




