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―I weave with you―【第四回・文章×絵企画作品集】  作者: 些稚 絃羽
桧野陽一さまイラスト『4枚目』より
6/28

正しい友達のつくりかた

イラスト:桧野陽一さま ( http://10819.mitemin.net/ )

指定ジャンル・必須要素:なし


→→ ジャンル:ヒューマンドラマ

  この作品は5,114字となっております。

「拓斗、おまたせっ! ん、なんかお前今日元気ない?」

「んあ? いや、元気だけど最近ずっと気になることあってさ」

「え、なに、まさか女ぁ?」

「違うし。じゃ、一個聞いていいか?」

「どうぞ?」

「友達ってさ、できるもん(・・・・・)? それともつくるもん(・・・・・)?」

「なんだそりゃ? ……まぁでも、なんか自然とできるもんじゃね?」

「……そうか」


 食べかけの焼きそばパンを、また一口頬張る。

 友達が“できるもの”なら、どうして俺とアイツはまだ友達じゃないんだろう。



**********



 おかげさまで、俺はこれまで友達に事欠いたことがない。


 記憶もない頃から一緒に遊んでいたという幼馴染をはじめとして、保育園では同じ組の子とはみんな友達だったし、小学校に上がってからも休み時間の度にクラスの友達が集まってきて、そこに違うクラスの奴が交ざっているのもいつものことだった。

 中学校に入ったら、自分がいわゆるクラスの人気者の部類にいることに気付くようになった。かといって大人しいグループとも分け隔てなく接してきたつもりだ。いつも俺がつるんでいる友達には話しかけない子も、俺にだけは普通に声をかけてくれた。押し付けられたと思っていた学級委員は本当に求められていて、俺の発言にみんなが反応を返してくれた。だからあの時、俺はみんなと友達だったと思う。

 陸上部に入ってからは徐々に部活を見学しに来る女子も増えた。俺が休憩しているとタオルやドリンクを渡してくれる女子が一定数いて、クラスも学年も違う女子たちから告白も……って、これは友達とは関係ないか。

 そして4月から俺は高校生になった。中学時代の友達もいるけど、新しい友達も沢山できた。「友達」について聞いてみたのも高校に入ってからできた友達だ。これまでのことを振り返ると、確かに友達は自然と“できた”ように思う。つくったんじゃなく、みんなが近付いてきてくれて、それで友達ができていった。


 それならやっぱり、友達は“できるもの”なのか?



「おーい、拓斗。あたしの話聞いてる?」

「ごめん、何だっけ?」

「ええ、ひどくない?」

「まあまあ、今日こいつダメなの。オトモダチのことで頭いっぱいだから」

「そういうんじゃないし」

「オトモダチ? だれ、だれのこと?」

「だから、そういうんじゃ、うわっ」


 廊下ですれ違った人と肩がぶつかった。結構な衝撃を受けて、反射的に振り返って謝る。


「こっちこそごめん」


 そう答えたのは、アイツだった。

 同じクラスなのにまだまともに話したことのない、いつも窓際の席で静かに空を見ている、アイツ。ちゃんと声を聞いたのは、もしや初めてかもしれない。


「いや……」


 俺たちが広がって歩いていたから、と続けようとしたけど、もうアイツはこちらに背を向けて歩き出してしまった。出しかけた言葉は呑み込むしかない。


「なにあれ? ちょっと態度悪くない?」

「そんなことないだろ、元々俺がぶつかったんだし」

「そうかなぁ? まあ、拓斗がいいならいいけど」


 止めていた足を踏み出して、スリッパで床を鳴らしながら考える。

 やっぱり、俺とアイツは友達じゃない。



**********



 友達が“つくるもの”だとしたら、そのつくりかたってなんだ?

 こうやって、板を合わせてラックをつくるみたいにはできないし。


「い、市原くん。釘打ちすぎ……」

「え、うわ、怖っ! って俺が打ったのか」



*****



 それとも、角材を彫刻刀で彫って別の形をつくり出すみたいに、関係は変わる?


「あれって熊、だよね?」

「うん、熊だね。ちょー熊」

「拓斗の才能開花、というかリアルすぎて怖いんですけど!」



*****



 ああ、彼女をつくるみたいに、言ってみたらいいのか?


「市原くん、私と付き合ってくれない?」

「ごめんなさい、あ」


 それだと断られる可能性もある、か?



*****



「あああ、もう分かんねぇ!!」

「市原、発狂するほどこの公式難しいか……?」

「あ、すんません」

「ハハッ、拓斗、なにやってんだよ」


 反論しようと友達の方を振り返る。友達の肩越しに、友達じゃないアイツが見えた。一人、窓の外に目をやって、こちらを一瞥することもなく。俺とアイツの間には、透明なのに分厚い壁があるみたいだ。

 本当に俺、何をやってるんだろう。



**********



 俺がアイツを気にする理由を考えてみた。


 アイツだけが、俺のことを気にしていないから? 

 そうだとしたらかなりナルシストみたいですごく嫌だけど、それは多分ない。友達は多いけど、友達が100人欲しくて友達になっているわけではないから。


 なら、恋?

 それはもっとない。俺は純粋な男の子だし、彼女はいないけど、別に心惹かれる子にまだ出会っていないだけで、男が好きとかそういうのでは絶対ない。


 考えてみると、理由らしい理由なんてない。ただ何となく、何を考えているのか知りたいと思う。

 今の友達に不満があるわけじゃない。だけどみんなが俺を見るのが、少し息苦しい時もある。

 逃げたいのだろうか。――いや、それよりも、息を吐きたいんだと思う。晴れた空を見上げると、深呼吸をしたくなるみたいに。


 いつも空を見上げるアイツは、きっとその心地良さを知っている。




「拓斗、悪い!」

「お?」

「呼び出しくらってたの忘れてたんだよぉ」

「おうおう、おつかれ」

「今日どこで食う?」

「天気良いし、旧校舎の屋上かな」

「分かった、終わったら行くわ!」

「多分こってり絞られるぞ、今日も」

「うるせ、じゃ行ってきますっ」


 今購買で買ったばかりのまだ温かい焼きそばパンとコロッケパンを手に、やけに重いガラスのドアを押し開けて校舎を出る。終わりかけの春も、まだ肌触りは強くない。

 渡り廊下を抜けて旧校舎に入る。低い二階建ての校舎は、屋上まですぐだ。

 旧校舎に足を踏み入れた途端にまとわりつく、古いコンクリートと錆の匂いがわりと好きだ。空気がひんやりしているのも、すごくいい。


 二階の廊下から短く伸びる階段を飛び越えて、鍵の壊れたドアを開く。途端に風がぶわっと校舎に入り込んで俺の身体を押し流そうとする。パンの無事を確認してから屋上へ出た。

 天気がいいと、旧校舎の屋上で昼休みを過ごす。三階建ての新校舎の方が高くて面白そうだけど、あっちには屋上がついていない。だから新校舎の三階から丸見えでも、我慢してここで過ごしている。先生に怒られたことはまだない。


 久し振りの一人の昼。新校舎からは声が聞こえるのに遠く感じて、俺の周りだけあんまり静かで。今俺の声は誰にも届かないんじゃないか、ってそんな気がした。

 屋上をぐるりと囲うペンキの剥げた柵は、檻みたいだ。握る掌にざらついて、たまに刺さる。


 ざざっと砂が擦れるような音がして、身を乗り出すとそこにアイツがいた。合服への移行期間で、俺はもうシャツ一枚だけどアイツはまだ学ランをきちんと着込んでいる。今日は着ていてもそんなに暑くはないかもしれない。

 アイツは一人で、旧校舎脇の段差に腰をかけた。みんなまだ思い思いの場所で昼飯を食べている時間だ。俺みたいにまだ食べ始めていない奴もきっと多い。そんな時間にアイツはここに一人でいる。何も持たずに。


 アイツはいじめられているわけじゃない。誰とも近付こうとはしないけど、すべてを避けようとはしてない。だからみんなも同じように、必要な時だけ近付いて、それで終わり。

 もしかしたら俺はみんなの内の一人にもなれていないのかもしれない。だって俺とアイツの会話は続かない。

 ……いや、俺はアイツにちゃんと声をかけたことがあったか?

 友達を“つくる”には、話しかけなきゃいけないんじゃないか?


 声をかけても無視されるかもしれない。でも、声をかけなかったら、気付かれないままだ。

 俺はアイツと、友達になりたい。


「松尾っ!」


 アイツは顔を上げて、相手が俺だと気付いても特にこれといった反応も示さず、ただ俺の言葉を待っていた。


「えっと、昼飯! 食わねぇの?」

「……買いそびれたから」

「購買? 毎日争奪戦だもんなぁ、俺みたいに授業終わりで速攻行っても間に合わない時あるし」

「そう、だな」


 おお、会話してる。そうか、俺とアイツの間には会話が足りなかったんだ。

 そうと分かれば、繋がりをつくればいいんだ。


「じゃあさ、これやるよ! 購買のおばちゃんイチオシ焼きそばパン!」

「なんで?」

「え?」


 遠慮されることはあっても、なんで、なんて聞かれるとは予想もしていなかった。いきなり友達になりたいから、とか言ったら恩着せがましいか?


「だ、だって腹減るだろ?」

「でも市原が自分で食べるから買ったんじゃないのか?」


 アイツが俺の名前を呼んだ。良かった、正直認識されてないんじゃないかって思っていたから。クラスの一員としてはきちんと認識してもらえているらしい。

 次はどうやって、この焼きそばパンを貰ってもらうかが重要だ。


「それは……いや、本当は苦手なんだ! おばちゃんがどうしてもって勧めてくれたから買ったんだけど、どうも焼きそばが」

「毎日買ってるのに?」

「え、なんで知ってんの?」


 言うとおり、俺の昼飯は毎日焼きそばパンだ。休みの日だって食べたいくらい好きだし、一口ちょうだいって言われてもできればやりたくない。そのくらい好きだけど、教室で食べることはないから知られていないと思ったんだけど。

 アイツは視線を逸らして、黒々とした髪の間につむじが見える。それから首を左右に傾けるから、首が疲れたらしいと分かる。

 俺も下に行こうか。でも近付いたらもう話してもらえないような気もして、その場から動けない。


 悩んでいる間にアイツはまた顔を上げる。今度は腕で体を支えたから、まだこうして話を続けてくれるらしい。

 アイツはどちらかといえば整った顔立ちだけど、目付きが尖っているようで怒って見えた。


「俺が買おうとする度に最後の一個を市原が取っていくから」


 今は本当に怒っていた。しかも俺は知らない内に怒られる原因をつくっていたらしい。


「……そうか、俺に積年の恨みを」

「積年って、何回かだけだし」

「もしかして、それで俺は嫌われて……?」

「は? 別に嫌ってるわけじゃ」


 そうは言うけど、本当は、心の底では嫌っているんだろう。だから俺と極力話そうとしてくれないんだ。購買は争奪戦だけど、毎度同じ奴に欲しいものを取られていたら俺だって嫌な気持ちになるはずだ。

 これは、友達どころではなくて、まず許してもらうところから始めないといけなかったのか。

 思考をぐるぐるとかき混ぜていると、階下で深いため息が聞こえた。

 アイツがうんざりした顔で俺を見ている。


「で?」

「ん?」

「好きなものを嫌いって言ってまで俺に話しかけてきた理由は?」

「えっと」


 せっかく向こうから聞いてくれているんだから、正直に答えた方がいいか? でも断られるの嫌だな。けどどっちにしても今の好感度では断られるの必至だから、ここは正直に言って長期戦を狙ってみようか……。 よし、男は度胸!


「松尾と、友達になりたい、です」

「……はあ?」


 およそ十秒の沈黙の後、馬鹿なのかと言わんばかりの声が返ってくる。

 無理だろうとは思ったけど、ここまでとはなかなか道のりは険しそうだぞ。


「それは交換条件?」


 そうだと言ったら、友達になれるんだろうか。

 おかしい。友達になりたいと思ったはずなのに、たった一個の焼きそばパンと引き換えに友達になってもらうと思ったら、それはなんだか友達らしくない。

 どうして、友達を“つくる”のはこんなに難しいんだろう。


「いいよ、なくても」

「へ?」

「焼きそばパンと交換じゃなくても、友達くらいなるよ」


 突然の急展開に、頭がついていかない。

 つまり、俺とアイツは、友達?


「って、友達ってこうやってなるものか知らないけど」


 そう言って、アイツが笑う。なんかすごく、友達みたいに。


「うん! 友達! 俺らもう、友達だな!」

「なんでそんな息巻いてんの? あ、でも、はい」

「ん?」

「交換はしないけど、焼きそばパンはもらう」


 アイツは手を出して、俺に焼きそばパンを強請る。

 交換はしなくて、でも焼きそばパンは欲しがって、それで。


「俺らもう、友達なんだろ?」


 さも純粋そうな目で、断ることができない顔で、アイツは待っている。



挿絵(By みてみん)



「な、なんかずりぃぞ!」

「いや、市原が言ったんだろ」

「でも、俺だって食いたいしっ」

「あれ、さっきき嫌いって言ってたじゃん」

「違うし! あれは嘘だってお前知ってんだろ!」

「えぇ、俺嘘吐かれてたんだ。友達に嘘吐かれた、傷付くなぁ」

「お前、意外と性格悪いな!」

「お前は意外と弄りがいあるな」

「あのな! お前ちょっとそこで待ってろ!」

「焼きそばパンだけ降ろしてくれたいいのに」

「松尾ぉ!」



 思っていたのとは少し違う、友達のつくりかた。

 でも、なんだか楽しくなりそうだ。


  


陽一さま、ありがとうございました。


ヒューマンドラマとつけるには弱い内容ではありますが、他に適したものもなかったので。

こちらのイラストを見て、彼に「ちょうだい」って言われた気がして、こういうお話しになりました。

友達って、なろう! と思ってなるものではないですが、自分も相手も何もしなければ友達にはなれないんですよね。今思うとよく友達ができたなぁなんて思います。

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