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―I weave with you―【第四回・文章×絵企画作品集】  作者: 些稚 絃羽
桧野陽一さまイラスト『【第四回・文章×絵企画】横断歩道』より
25/28

正しい友達とのつきあいかた

イラスト:桧野陽一さま (http://10819.mitemin.net/ )

指定ジャンル・必須要素:なし


→→ ジャンル:ヒューマンドラマ(違うけど)

  この作品は2,052字となっております。

  ※第六編『正しい友達のつくりかた』の後日談です。

 購買の焼きそばパン。友情の証、だなんて大それたことは言わないけど、思い出の味ではある。

 あれから早いもので6年が過ぎた。思い出の味で結ばれた友情は、まだ解けていない。

 高校時代、クラスのムードメーカーだった市原は、大学内でも人気者だ。先輩後輩関係なく、しかも顔見知りかも関係なく、誰とでもすぐに打ち解けられるのが、市原の良いところだと思う。そんな市原があの時俺にどう声をかけたかを話したら、きっと誰も信じないだろう。

 友達なんて、できたらできたでいいし、できなくても何の問題もない。

 俺の考えを、市原は一瞬で吹き飛ばした。俺と友達になりたいなんて変な奴だと思ったけど、あの時友達になっていなかったら大学生活を楽しいとも思わなかっただろう。


 誰といても、俺を見つけると駆け寄ってくる市原は、周囲の人間から「ご主人様を出迎える子犬」に例えられている。一度その話に乗ってポッキーを一本差し出したら、嬉しそうに食べていた。あの時には、俺にも耳と尻尾が見えた。

 周りからすれば異常なほどに仲が良いらしく、なかにはデキているではないかと邪推する人もいる。市原の前の彼女もその一人で、挙句喧嘩別れした時はさすがに申し訳ない気もした。だけど市原は割り切っていたようで、積極的な恋人探しの末、割と早くに新しい彼女ができた。「俺と松尾との仲にも理解がある」と言っていたが、そもそも市原のそういう態度が誤解を生んでいる気がしてならない。この間なんてやけに静かだと思ったら、彼女の反応が俺に似ていたとかで「俺、やっぱり松尾のこと好きなのかな、気付かなかったけど潜在意識の中では、ライクじゃなくてラブだったのかな?!」と勝手に悩んでいたので頭突きをかましておいた。やっぱりってなんだ、やっぱりって。


 市原に彼女ができても、俺と市原が一緒に過ごす時間はあまり変わらない。それぞれ違うバイトをしていて自由な時間は減っているはずなのに、何かと一緒にいるので不思議だ。それは俺に彼女ができてからも変わっていない。

 今も「午後から暇か?」と呼び出されて、駅前に向かっているところだ。

 駅はもう目と鼻の先で、横断歩道を渡ればすぐ。信号もなく車もまばらのため、このまま渡ってしまおうと思っていると、横断歩道の先に見慣れた顔を見つける。


「市原」



挿絵(By みてみん)



 片手を上げて名前を呼ぶと、こちらに気付く。手を上げて応えたのを見て、小走りに横断歩道を渡る。


「悪いな、呼び出して」

「いつものことだろ」

「失礼な。別にいつも俺が呼び出して、る……な、ごめんなさい」


 それを悪いと非難しているわけでもないのに、市原はすまなそうに手を合わせる。それで今日は、と尋ねると途端に顔をぱっと明るくしてまくし立てる。


「あのな、あのな! 月末、結香(ゆか)ちゃんの誕生日なんだよ! で、プレゼン選ぶの手伝ってほしくてさ!」


 歩きながら、市原の顔をまじまじと見つめてしまう。


「俺に何ができると思ってんの?」

「いやー、俺の誕生日の時に結香ちゃんがセンス抜群なの分かっちゃったからさ、何とか喜んでもらえるもん選びたいんだよ」

「いや、だから何で俺?」

「そんなの、松尾が結香ちゃんに似てるからだろ」


 まだそんなことを言ってるのか、と伸ばした拳が避けられたので、反対の手で腹にチョップをお見舞いしてやった。むかつくドヤ顔を崩せてすっきりした。


「ゲホッ、ひでぇ」

「馬鹿なこと言ってるからだろ。あんな美人とどこが似てるって言うんだ」

「見た目じゃなくて、結構選ぶもんとか好きな色とか似てんだよ、まじで」


 そうは言ったって、男の俺と彼女では好みは違うだろう。それに俺が選んだものを彼女に贈って本当に喜んでもらえるとでも思っているのか?


「……こんなことなら智絵(ちえ)も呼ぶんだった」

「えー、智絵ちゃんに言ったら結香ちゃんに筒抜けじゃん」


 なぜか俺の彼女はあまり信頼されてないらしい。彼女同士も友達だからそう思うのは仕方がないかもしれないけど、女友達の方が的確なものを選んでくれるはずなのに。こうと決めた市原が意見を変えることはないから、渋々一人で手伝うことにするが。

 唇を尖らせる市原に分かったと伝えると、そうと来たら急ごうと駆け出す。テンションの高さに溜息を吐きつつ付いていく。早く来いと振り返る市原の足が車道にかかろうとしていた時、右手から白いワゴンが走ってくるのが見えて、俺は慌てて市原の腕を掴んで引いた。バランスを崩した体を抱き留め、ワゴンが走り去るのを確認して安堵の息を吐く。それから頭を叩いた。


「危ないだろっ」

「……わりぃ」

「お前、この前も」

「この前?」

「……いや。何ともないなら行くぞ」


 不思議そうに首を傾げる市原を置いて歩き出す。

 この前も、同じように車道に飛び出そうになった体をこうして抱き留めた。けど、あれは市原じゃない、智絵だ。智絵も興奮すると周りが見えなくなる性格で、底抜けに明るいところは長所だけど、突っ走りやすく危なっかしい。


 ……俺も、市原のことを言えないらしい。だけどもちろん、市原のことは正真正銘のライクだ。



  

桧野陽一さま、ありがとうございました。


『正しい友達のつくりかた』の六年後、大学生になった市原と松尾を書いてみました。

たまにいますよね、とっても仲良しな男友達。他の誰といる時とも違う、二人揃うと無邪気な子どもに返るような。

女性同士ではまずない雰囲気が羨ましいなぁと思います。

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