おてんば娘はかわいくない
イラスト:小桜桃さま ( http://20655.mitemin.net/ )
指定ジャンル・必須要素:なし
→→ ジャンル:青春
この作品は2,504字となっております。
日曜、朝八時。
休日だし、本当は寝ていたい。というかそのつもりでいたのに叩き起こされて、機嫌は悪い。でも無視したらしたで泣かれても困るし、飛び蹴りは痛いし、学校であることないこと吹聴されるのも嫌だし。仕方がない。
玄関を開けると、門扉の向こうに青い触角、もとい頭が見える。中学二年生でそこまでしか見えないのは発育が心配になるが、口には出さない。身長ネタには拳が飛ぶ。
門扉を開けるとすぐに文句が飛んできた。
「遅い。女子か」
「まぁ季咲よりは女子力高い自信あるな」
「その鼻へし折るぞ」
「野蛮め」
口が悪くて、粗暴で、可愛げのない女子と幼馴染として成長して十四年。女扱いは保育園でやめて、普通の友達として接するのを小学生で諦めて、中学に上がってからは凶暴なペットとして見るようになった。ペットだと思うとすぐ手足が出る癖も、自分の躾がなっていなかったと思うことでやり過ごせる、気がした。
それにしても。季咲の服装を上から下までじっくり観察してみる。
「ちょっと、な、何なのジロジロ見て」
「お前、その格好寒くね?」
「……は?」
「12月だぞ、いくらいつも走り回ってるからってそんなに足出てたら寒いだろ」
上半身はTシャツに長袖のパーカーを羽織っているからまだ、絶対寒いだろうとは思うけど見て寒さを感じるほどではないが、下半身は明らかに季節外れだ。俺がもう少し背が高かったら履いていないと思うかもしれないほどの短さのショートパンツに、膝下までのハイソックスとスニーカー。せめてロングブーツでも履いていてくれたら違ったのに。剥き出しの太ももが寒さから来る痛みを想像させて、俺はダッフルコートを着込んだ身体で震えた。
俺の主張を聞いて、季咲は得意げな笑みを浮かべた。
「清哉も男だねぇ。あたしの絶対領域にやられたか」
「違うから、絶対領域ってそんな広いもんじゃないから」
「はぁ?」
「絶対領域を見せつけたいならせめてニーハイ履けよ」
周りに感化されやすいのに微妙に間違った知識で行動してしまう節があり、俺は改めて絶対領域についての説明をすることになった。なんで俺が、とか今更思わないし、どうせやるなら正しくやらせてやりたいと思うのは親心か。季咲がしたからといって1ミリも感情は揺れないが。
「で、寒いだろ?」
「着替えるの面倒だからいい」
「寒いのは否定しないんだな。でも風邪引かれても困るし、せめてこれ巻いとけ」
手に持っていた大判のストールを差し出す。透けない厚手の生地は何となく手に暖かい。
「え、これ清哉がわざわざ?」
「母さんが持ってけって。何でかと思ったけど、多分その格好見て心配したんだろ」
アジアンテイストな柄のストールで、腰に巻くとロングスカートのようになった。意外なほどよく似合う。目鼻立ちがはっきりしているからだろうか、原色ばかりの色の取り合わせなのにどうしてだかまとまって見えて、少し腹立たしい。からかう材料を探して、気付く。
「あ、そうやるとスカートのスリットみたいになるじゃん。それもある意味絶対領域だよな」
「せくしーってこと?」
「何で「セクシー」がそんな言いにくそうなんだ。とりあえず季咲じゃセクシーには程遠いな、頑張っても内面の野蛮さが滲み出るから、イダッ!」
脚を蹴られた。弁慶の泣き所をかろうじて外れたから良かったものの、そうじゃなければ一週間は痛み続ける威力だった。
「お前なぁ……」
「ほら、さっさと行くよ」
「行くってどこに」
「ショッピングモール!」
休日の朝っぱらから起こされたから何かと思えば。家でも学校でもなぜかセットで数えられて一緒にいさせられるのに、どうして休みの日まで二人で出かけないといけないのか。しかもなぜショッピングモール、なぜこんなに時間が早い。あと、勝手に歩き出すな、俺は認めてない。
「何で?」
「バスでしょ」
「乗り物は聞いてねぇ。何のために行くのかを聞いてんの」
「ショッピングモールなんだからショッピングのために決まってんでしょ、頭沸いてんの?」
「だから何買いに行くんだよ」
「え、服?」
どうして疑問形なんだ。でもまさか、近所のスポーツ用品店かお姉さんのお下がりでまかなっていたはずの季咲が、自ら服を買いに行くとは。
しかしそれならますます俺の出番ではない。女子には見えないからと言って男子ではない。それに俺もおしゃれなんてよく分からないし、女物となればますます分からない。
「買い物なら友達誘えよ」
「なんでよ」
「女同士で行った方が楽しいだろ、俺、女の服なんか分かんねぇし」
「別にいいよ」
あれか、俺は荷物持ち要員か? 男より男みたいな性格の季咲がそんなに買い物をするとは思えないけど。それか、一人で行くのは心細いから手頃な俺を捕まえた? そっちの方がありそうだ、何だかんだ一人行動が苦手な奴だし。
「超ダサいの買わせても知らねぇぞ?」
「あたしだってあんまりダサかったら気付くわ」
「女の服の流行って色々ありすぎて分かんねぇよなぁ」
俺がそう言うと、季咲は突然立ち止まる。隣にいなくなったのを追って振り返ると、俯き加減にもごもごと何か言っている。
「なんて?」
「だから……にあ……もう……」
「だから聞こえねぇって」
仕方なく数歩戻って、季咲の前まで行く。すると途端に顔を上げる。鼻と頬が赤い、やっぱり寒いんじゃないか、バスの中は暖房が効いているだろうけど。そんな考えを余所に季咲が口を開いた。
「流行のじゃなくていいから、清哉が、似合うと思うの、選んでよ」
しまった、不覚だった。こういう流れにならないようにしてたのに。
茶化せば否定することも分かっているから、俺はそれを利用する。この先も当分。
「ほー、俺の好みが知りたいと」
「べ、別に清哉の好みとかはどうでもいいけど、男子が好きな服装とかは男子の方が分かるじゃん、それでだから」
「お前には着ぐるみが一番似合う」
「ふざけんな!!」
「体当たりすんな。ホント、かわいくねぇな」
クラスメイトであり友達で、妹みたいだけど姉のようでもあり、すぐに噛み付くペットのような幼馴染。俺たちの関係を変えるのは、もっと先でいい。それがどちらに転ぶとしても。
今はただ、似合う色を考えている。
小桜桃さま、ありがとうございました。
青春ジャンルって言えるほど青春してないですが。
同級生の男女の幼馴染って、色んな想像ができていいですね。
かわいい顔なのにボーイッシュで、口が悪い女の子が結構好きです。
でも、ごめんなさい、こんなに口悪くして……。