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―I weave with you―【第四回・文章×絵企画作品集】  作者: 些稚 絃羽
檸檬絵郎さまイラスト『敗北のケンタウロス』より
17/28

『敗北のケンタウロス』

イラスト:檸檬絵郎さま (http://22105.mitemin.net/ )

指定ジャンル・必須要素:なし


→→ ジャンル:???

  この作品は1,203字となっております。

挿絵(By みてみん)



 力の抜けた手から、するりと落ちるコントローラー。カーペットに着地してことりと音がした。


「んだよ、これ。マジでケンタウロス毎回負けんじゃん」

「お前はタイトルが読めんのか、『敗北のケンタウロス』と書いてるだろ?」


 振り返ると、じいちゃんはにたりと口角を上げて、マグカップを傾けている。湯気の向こうの幸せそうな顔が妙に腹立たしい。


「あのさー、こういうのクソゲーって言うんだよ。意味分かる?」

「おい、馬鹿にしてんのか? それ最初に使い始めた人と同世代、というか俺のが上か」

「うわー、どおりでじじいだ」

「おうよ、経験豊富だ、羨ましいだろ」


 高校生相手にどんな挑発の仕方だ。

 それにしても、この『敗北のケンタウロス』なるゲーム。じいちゃんが若い頃に作ったものらしい。

 じいちゃんは、かつてファミコンが全盛期だった時代にゲーム制作会社に勤めていた。今も名作として語り継がれているゲームを生み出したチームの中には、じいちゃんの名前がある。そしてこのクソゲーは、その頃にじいちゃん主導で作ったものだと言う。


「でも何で周りの人止めなかったかな」

「割りといけるんじゃないかって皆乗り気だったんだぞ? まあ、バブルだな」

「それで弾けたってか」


 何度対戦しても毎回ケンタウロスが負けるゲームって、どれだけ気分が跳ねたら作りたくなるのか。


「でも、結局その希望も弾けたわけだろ?」

「いやいや、コアなファンはいるもんだよ」

「マジかよ、これで?!」


 画面には無惨に痛め付けられたケンタウロスに、タイトルが点滅する。今ある装備を駆使して望んだが、やはり『敗北』には抗えなかった。

 世の中には妙な大人がいるものだと思っていると、じいちゃんは可笑しそうに笑って俺の顔を覗き込む。


「ところで、今ので何戦目だ?」

「あーと、12、3戦したかな」

「ほらな?」

「へ?」

「思わずもう一戦したくなるだろ?」


 やられた、と思った。これはそういうゲームなんだ。


「この装備が駄目な次はこれ、この敵の時はこの技が効くかもしれない。単純なゲームだからこそ、「次は勝てるかもしれない」と思ってもう1戦したくなる」

「それを狙ってんのか」

「それに、本当に俺がただ負けるためのゲームを作ったと思ってるのか?」


 勝つ方法があるってことか、この理不尽とも思える敗北から抜け出す方法が?

 ……悔しいけど、知りたい。制作者の、じいちゃんの思惑に嵌まると思うと心底悔しいけど、知りたくなっている。転がしたままのコントローラーを握り直した。


「さて、1日で足りるかな?」

「……半日で勝ってやる」

「そんなに単純だといいけどなぁ」

「さっき、単純なゲームって言ってなかったか?」

「構造は単純でも、ゴールまでの道のりが平坦だとは限らない」

「なんかムカつくな……!」


 年季の入ったコントローラーのSTARTボタンを押す。元通りのケンタウロスがゆるゆると動き出す。

 絶対勝たせてやる。妙に固い決意で、新たな一戦が始まろうとしていた。


  

檸檬絵郎さま、ありがとうございました。


友達みたいなおじいちゃんと孫の関係っていいなぁと思います。

ファミコン世代でも高校生でもないですが、絵のテイスト的にゲームっぽく見えたので。

ジャンルは……なんだろ?笑

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