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皆様おはこんばんにちは。
荒波ゲオルクです!
執筆が思うように進み、勢いに乗っております。これからは日曜日に定期更新にしようと思います。
それでは、本編をどうぞ!
夏と言えども午前二時では外気が涼しい。時折夜風が頬を優しく撫で、街灯が一切点灯していないためか、宵闇はどこまでも続いている。
桜並木の道を暗闇の中で十分ほど歩いているせいか、目が慣れてきた。
右手には大きな川が静かに流れ、周囲を流水音が包んでいる。
左手には・・・
「・・・って、歩くの速いのよ!」
「遅っせぇんだよ・・・」相変わらず和哉は不貞腐れた顔をしている。
「私の方が歩幅狭いんだから、私に合わせなさいよ!」
「二人三脚嫌いなんだよ・・・」
「極端ね・・・」
「少しゆっくり行こうか」
「泰志優し〜!」和哉も少しは見習いなさい!
「ウゼェ女だ・・・」
自分からカッチーンと金属音がした気がする。しかし、ビンタしたら対戦車ジョイフル?ライフル?で頭に風穴を開けられてしまう。ビンタしたい気持ちと手を抑えて歩き出す。
それでもやり切れなさと己の弱さが自分の中で渦巻いているのが分かる。胸の奥をかき乱されたような嫌悪感が喉をせり上がろうとする。必死に抑えていると、今度は自分の心臓の近くを強く締め上げられる。さらにキリキリと痛むが、美嘉のためよ。我慢しないと。
痛みと嫌悪感を堪える私に気づいたのか、雅春がペットボトルに入った水を手渡してくれた。
「喉乾いたら飲みなよ?」
私が痛みに耐えているのを皆に知られないように気を遣って自然な流れで渡してくれたのだろう。恐る恐る受け取る。
冷たいかと思っていたが、意外にも暖かった。
「あ、ありがと・・・」
俯きながらボソボソと感謝を述べると、雅治は満足したのだろうが、真顔だった。それでも、この厚意はありがたい。それも、飲みやすく、体を冷やさないぬるま湯だ。湿った夜風が一瞬爽やかに感じた。
受け取ったぬるま湯を一口、二口飲んで気持ちを落ち着かせる。痛みと嫌悪感はぬるま湯と一緒に流れていった。
三人は立ち止まる私を待っていてくれた。意外と優しい所あるじゃない。小走りで追いつく。
「そんじゃ、行くべ」
浩は再び歩き出そうとしたが、足を止めて私に向き直る。
頭の中で疑問符が飛び交う。第一に、夜なのに何でサングラスかけてるの?第二に、その手に持つものは何?考えるているうちに私に持っていた黒い塊を差し出す。
「ほれ。自動拳銃じゃ。なんかあったら、ドタマにブチ込め」
受け取ると、手に冷たい金属の感触と重みを感じた。
え?これって、ピストル?ホンモノの?それより、
「「ドタマ」って何?ワード的に下ネタっぽいんですけど・・・」
浩をキッと睨みつける。ーーー後から聞いたが、この時私はゴミを見るような目をしていたらしいーーーすると、目を合わせてきた。サングラス越しでもその目線は私を震え上がらせる。私の前には狼か鬼か、とにかく、人ならざる闘気をもつ生物が二足で立っていた。
「「ドタマ」っつーのは、「頭」っつー意味じゃ。護身用に持っとけ。ウチらが居るけん、ゾンビがウヨウヨしとるからな」
「そっか・・・ありがと」
セーラー服の内ポケットに忍ばせておこう。
一行は再び歩き出す。
さらに十分程歩くと、町の幹線道路に出た。それを右側・・・西伊豆方面へ曲がり、さらに歩く。
宮ノ前橋を渡り、町の中心街へと進む。
道の両側にはパチンコ屋やコインランドリー、飲食店、スーパーマーケット、銀行と様々な店が連なっている。
小綺麗とした店もあるが、無残に爆発四散している店もある。ところどころ黒煙が上がり、炭のような臭いがする。
血が壁に飛び散っている店を見つけ気分が悪くなる。強烈な死臭と金属の臭いが鼻を容赦なく攻撃する。
この道は所々街灯がついているが、不規則に点滅するため、ホラーゲームのムードたっぷりである。ゾンビで銃でホラーゲームって言ったら、バイオハ・・・あれ?あの交差点・・・なんか見覚えがある・・・
「あの交差点って・・・」
「俺らが洋子を助けた所だな!」
泰志は得意げに鼻を鳴らす。
近づくにつれて肉を焼いた臭いが徐々に強くなっていく。さらに近づくと、白い塊が横たわっている。
「な、何よこれ・・・!」
「俺が焼いたゾンビの骨だけど?」
「だけど?じゃないわよ雅春!どうなってるの!?」
「中途半端に死体を放置すると、死臭にゾンビ共が集まってくるんだよ。ほら、耳澄ませてみ?唸り声が聞こえるだろ?」
「ッ!」
本当に声が聞こえた。正確には唸り声だが、意外と近い。ものの三百mほどだろうか。鬼の声と息遣いがまだ耳にこびりついているせいか、自然と体が震える。
「休むか?」浩が声をかけてくる。
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・」
無理矢理前を向いて、ふらつく足を前に押し出す。
交差点を抜け、ボーリング場の横を通る。和食屋を左手に見ながら少し急な坂を登る。そして、なだらかな斜面を降りきったところのT字路で鉄パイプなどで武装している三人に出くわす。
浩が前に出て、ニカッと笑いながら右手を挙げて「おう。大河!今日はワレんとこが当番だったなぁ。境界の警備ご苦労さん」と呼びかける。
「あ!浩さん、皆さんこんばんはっす!」
続いて二人も「こんばんはっす!」と頭を軽く下げる。どうやら浩たちは松崎では名が知れているらしい。
「今日は西伊豆に用事でもあるんすか?」
「まぁな。ツレの妹が黒牙のボンクラ共に連れてかれたみてぇでよ。カチ混んで来るわ」
「そりゃぁ大変っすね。一刻も早く助けてあげてください」
「おう。もちろんじゃ」
そう言うと、浩は一人で歩き出す。慌てて警備の三人は道を開ける。続いて私たちも西伊豆に向けて歩みを進める。
「「「お疲れさんです!」」」と三人は私たちの背中に声援を送ってくる。浩は振り向かずに右手を降っている。私は振り向いて、手を振っておく。
左に大きな港湾施設があるが、左折せずにT字路を直進する。
松崎と西伊豆の境界を超え、西伊豆に入る。
緩いカーブを描く海岸線で今度は違う三人が鈍器を持って前に立ちはだかる。
「待て、松崎のモンだろ。何しに来やがった?」
キャップを被る少年が前に出て、ドスの効いた声を浴びせてくる。
「いや〜別に大したことしに来たワケじゃねぇよ?ちっと黒牙ぶっ飛ばしに来ただけだぜ?」浩、煽っちゃダメじゃない!?
「ああ?ふざけんな!」
その一言で三人は殺気立ち、鈍器を構え始める。
え?乱闘!?待って!私銃なんて撃ったことない!
だが、念のため右手を内ポケットのピストルに伸ばす。
刹那、周囲に異様な闘気が溢れていることに気付く。発生源はすぐに分かった。浩が左手で私たちを制し、二歩前に出る。
「鉄パイプに金属バット、有刺鉄線バットか・・・ま、ええか」
言い終わる前に飛び出し、六、七mあったキャップの少年との間合いを一瞬で詰めた。
「チィッ!」
少年が浩の頭に鉄パイプを振り下ろすが、遅すぎた。
浩は無駄の無い正確無比な右ストレートを少年の頬に打ち込んだ。少年は訳も分からず後方約五mほど殴り飛ばされた。
「え?」
呆気にとられて金属バットを向けるのを忘れていた別の少年には容赦の無い左膝蹴りが顔面を強打し、空中を三m舞い、地面に激突する。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」
逃げ腰の少年は背を向けた瞬間に頸部を右手で鷲掴みにされ、海へと投げ飛ばされた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ドボーン」
浩はわざとらしく着水音を口で言う。
こちらに向き直り、「さて、行こうか」と声をかけてまた歩き出す。
「何者なのよ浩・・・」
ボソッと言った私に和哉が答える。
「もともとあのバカは鬼みてぇに喧嘩強えんだよ。それが強化されてるから、異常なレベルで強え」
「ふぅん・・・」
いや、強いとかそう言うレベルの問題じゃない。第一、パンチで人が空を飛ぶなんて漫画でしか見たことが無い。何か格闘技でもしていたのか?それとも前世がブルースリーなのか?とにかく、暴力が人の皮を被ったモノと行動を共にするのだ。安心出来るような、安心出来ないような微妙な所である。
考えてる内に廃ホテルのような建物の前を通り、車屋さんに近づいたとき、不意に皆が足を止める。
「あそこに見える工場みたいな建物分かるか?」
雅春が前方百数mにある自動車整備工場のような建物を指差す。
「ええ。見えるわ」
「あれが黒牙のアジトだ。」
「じゃあ、美嘉は!」
「居るかもしれない。戦闘になったら、銃を構えて、後ろの方に居な。俺たちが制圧するから」
「う、うん」
体温で温まった鋼鉄の兵器を取り出し、構える。
さらにアジトに近づき、正面に回る。
「さて、パーリーと行こうか!」
泰志はテンションが上がって来たようだ。
雅春と泰志が重そうな金属の両開きの扉を勢いよく開ける。
「そんでよ・・・あ?何モンだテメェら!?」
黒牙隊の一人ーーー金髪に無精髭のいかにもワルそうな人が楽しそうな会話を中断して、こちらを睨んでいる。
「ギャハハハハ!って、誰だ!?」
他の隊員も気付いたらしい。武器を手に取り始める。
「ああ?俺らか?松崎闘鬼會じゃ!洋子の妹の美嘉を返さんかい!」
浩が鬼の形相で凄みのある啖呵を切る。黒牙の隊員がビクッとする。
「もしかして、この子のことかい?」
金髪の男が横にずれる。すると、男の後ろから鎖で椅子に拘束され、目隠しをされた美嘉が現れた。
「美嘉!大丈夫なの!?」
「その声・・・お姉ちゃん!?助けに来てくれたの?」
「そうよ!最強の助っ人を連れてきたわよ!待ってなさい!」
「うん!」
良かった。美嘉は無事だ。どうにかして助けないと!
すると、浩が金髪の男に呼び掛ける。
「おう。ワレは何で美嘉を連れ去ったが?何か理由があるら?」
「ああ?総長の命令さ。それ以上は教えらんねーな」
浩は私の方を向き、小さい声で囁いてくる。
「こいらはハナシが通じる奴らじゃねぇ。ひと暴れするわ。下がってな」
「私も美嘉のために・・・」
「いや、スレイヤー同士の戦いじゃ。よせ」
え?この人達もナイトスレイヤーなの?それでは自分では歯が立たない。悔しさに唇を噛みながら、後ろに下がる。
「鉄パイプ・・・釘バット・・・木刀・・・竹刀・・・」
和哉が相手の戦力を分析し始める。
金髪の男が木刀をひと舐めし、「んで、どーすんの?闘鬼會の旦那?」と浩に問いかける。
「んなモン決まってるらぁ?やろうじゃぁ?」
「ねぇ雅春。「やろうじゃ」ってどう言う意味?」
「うん。「やらないか」って意味だよ」
「え?浩そっち系なの?」
浩と距離を取り、雅春を盾にしてドン引きする私にどうにか弁解しようとしてくる。
「違うわ!シリアスな雰囲気ぶっ壊してんじゃねぇ!「始めよう」って意味だよ!それに「や」はカタカナじゃなくて、「戦」だ!」
流石にいきなり「やらないか」って言う意味を教えられたら誰でも引くだろう。
茶番に飽きたのか、黒牙の隊員は全員イライラしている。
「マジでどーすんの?松崎ごとぶっ潰すよ?」
「うるせえこんぼうじゃ。気をとりなおして・・・」
「戦ろうじゃぁ?」
皆様、今回もご愛読ありがとうございます!
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明日、休校になれェェェェェェ!!!
それでは、また来週お楽しみに!